内容説明
憲太郎と重蔵はともに自らの人生に穴のような欠落を感じていた。二人は自らの人生を問い直し、これからの生き方を模索すべく、「生きて帰らざる海」を意味するタクラマカン砂漠と「世界最後の桃源郷」といわれるフンザへの旅を企図した。そこに、貴志子と圭輔も加わり、四人の大いなる再生の旅が始まった―。大自然を背景に、魂の歓びに満ちた生を描く、希望と再生の大作完結編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゴンゾウ@新潮部
113
おとなの青春小説だった。なんとなく先が見え始める五十代。ずっしりと感じる焦燥感。こころの中にぽっかりと開いた穴を感じる。憲太郎も重蔵も決して聖人君子のような立派な人間ではない。失敗もすれば狼狽えることもある。何処にでもいる分別のあるおとな。でもこの分別や良識が大切なんだろう。正しいやり方をずっと繰り返す。2016/04/02
夜長月🌙@5/19文学フリマQ38
65
日本から逃げ出すようにパキスタンに向かった4人。何か異国の地に救いを求めるようでもありましたが、外から見た自分の国をそして自分の人生を見つめ直すことになります。何もない草原に置かれた椅子に座るのは自分です。働かされてばかりのこの社会の中で見失いそうになる自分がいますが、自らの人生の中心はまごうことなき自分自身です。「理」ではなく「情」で動く人々の物語でした。2022/04/14
巨峰
51
近い将来に彼らと同じような年齢を迎える私は、彼らほど立派じゃないけれど、それでもこれからの人生のために読んで良かった。次は付箋を着けながら再読しよう。そんな風に思った小説は始めてだ。中原昌也の詩集にも興味でてきました。富樫が大人で魅力的なのは、物事を解決する手段や方法を沢山持っていて、それを出し惜しみせず、鼻につかせないところだと思います。2015/09/05
kei302
46
憲太郎と重蔵はともに自らの人生に穴のような欠落を感じていた。二人は自らの人生を問い直し、これからの生き方を模索すべく「生きて帰らざる海」を意味するタクラマカン砂漠と「世界最後の桃源郷」といわれるフンザへの旅を企図。下巻は旅行記ふう。乳幼児のときの親からの虐待が子どもの心身の成長に及ぼす影響がリアルだった。20年ほど前に出会った、ちょっとしたきっかけで固まってしまう子がいた。圭輔が重なる。2023/02/27
B-Beat
33
★面白かった。作者があとがきにも述べていたが阪神大震災に罹災した直後からこの日本という国の姿というか有り様に疑問を抱いたのがこの作品執筆の契機だったと。確かにそんな思いが主人公と親友との会話を中心にこれでもかというほどに盛り込まれていた。しかしながら障害のある幼児をめぐってお話が展開するこの巻で作者は日本列島の大きさに匹敵するタクラマカン砂漠に一歩を踏み出す幼児の姿を描くことで今を生きる「大人」のひとつの境地というか立ち居地を教えてくれているような。そんな読後感。2013/02/27