内容説明
離婚して娘と暮らす遠間憲太郎は、陶器店を経営する篠原貴志子に少年のような恋をした。女は狼だという富樫重蔵とは、ともに五十歳で親友の契りを結んでいる。ある日、憲太郎は、母親から虐待を受け、心身共に未発達の幼児、圭輔を預かることになった。憲太郎は富樫は、萎縮した圭輔の心に生きる強さを懸命に吹き込むが…。人生の困難、生の荘厳を描く、心震える感動の雄編前編。
著者等紹介
宮本輝[ミヤモトテル]
1947(昭和22)年、兵庫県神戸市生れ。追手門学院大学文学部卒業。広告代理店勤務等を経て、’77年「泥の河」で太宰治賞を、翌年「螢川」で芥川賞を受賞。その後、結核のため二年ほどの療養生活を送るが、回復後、旺盛な執筆活動をすすめる。『優駿』(吉川英治文学賞)等、多くの作品がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゴンゾウ@新潮部
116
人生の最終コーナーに差し掛かる50男達の友情を描いた作品。性格の不一致から長年連れ添った妻と別れ娘と暮らす憲太郎。取引先の社長で同年代の富樫と親友の契りをかわす。ある時母親から虐待を受けていた少年圭輔を預かることになってしまう。当初は預かることに消極的だった憲一郎が圭輔に少しづつ生命を吹き込んで行く。2016/03/31
巨峰
56
まず震災小説である。阪神大震災の経験から日本という国が、国民を大切になんかこれっぽっちも思っていないことを体感した50代の男の話である。「五十にして天命を知る」再起不能になっても翻らない信ずるものがあるかを自己に問う大人の話である。「あなたの瞳のなかには、3つの青い星がある。ひとつは潔癖であり、もうひとつは淫蕩であり、さらにもう一つは使命である。」異国の地フンザで出会ったイスラムの老人の言葉から、自分の使命とは何かと考え始めるところからこの物語は始まる。50代男同士の友情がどう進むのか下巻が楽しみです2015/09/04
kei302
46
1999年出版の本。KindleUnlimitedに上巻だけ出ていた(よくあるパターン) 読むと清廉な気分になる。母親から虐待され心を閉ざした圭輔を3年間育てた義父の喜多川を詰る場面が下巻に出てきたけど、喜多川さんは頑張ったし、よくやったと思う。助けてくれる人が現れて気力が途切れてしまうのは仕方ないと思う。2023/02/25
がいむ
33
秋になって頭が働くようになると?宮本さんを読みたくなる。映画化され、観ようと思いながら逃してしまった作品。この流れるような文章がやっぱりいいなあ。50歳の男性主人公二人のセリフにいろいろうなづいてしまう。少し年下の人たちに向けての宮本さんからのエールかな。登場人物は善人、悪人の区別でなく、ひとりの人の中に誠実さも、いい加減さも、愚かなところもあるような書き方に惹かれます。魔がさす、ということばが前半のキーのような気がする。下巻へ。2013/10/25
まーみーよー
31
50歳を超えた主人公憲太郎とその友人富樫の人生の「仕切り直し」。自身の生き方や人情の機微を考える主人公は、安定の宮本輝節。ただ、面白いことは面白いのだが、中盤までやや散漫に感じてしまった。付き合いの浅い喜多川の子、圭輔を預かるまでがちょっと長いかな。阪神大震災後の不況下が舞台なので、宮本さんにしては当時の日本に対する批判も多い。それでも下巻で面白くなりそうな予感はする。2024/01/25