内容説明
夫の愛人と修羅場を演じるなんて、これが自分の人生なのか。こんなにも荒々しい女が自分なのか。カプセルホテルへのプチ家出も、「あなたをもっと知りたい」と囁く男との逢瀬も、敏子の戸惑いを消しはしない。人はいくら歳を重ねても、一人で驚きと悩みに向き合うのだ。「老い方」に答えなんて、ない。やっぱり、とことん行くしかない!定年後世代の男女に訪れる、魂の昂揚を描く。第5回婦人公論文芸賞受賞作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
390
上巻では、敏子は夫の死を契機に次々と押し寄せてくる雑事や困難にひたすら翻弄されていた。そして、その負のエネルギーが物語を推し進めてもいたのである。ところが、この下巻にいたって、敏子は主導権を回復する。30年ほどにも及ぶ平穏な(敏子にとってはその筈だった)結婚生活と、その後の激動の半年。敏子にとってこれらの日々は、まさに「日常生活の冒険」そのものであった。上巻を大きく上回る奔流のようなスピード感が冴える。しかも、そのことによって他者との関係性のあり方もまた大きく変容を遂げたのである。痛快な小説だった。2017/11/18
Tsuyoshi
80
上巻ではまだ危なっかしい部分のあった敏子が不倫相手との対峙から子供達との距離の取り方に道筋をつけ、女友達や蕎麦仲間との告白大会に至るまで、どんどん逞しくなっていく姿が痛快だった。敏子だけではなく様々な登場人物たちの事情や心境も垣間見れ、平等に訪れる「老い」をどう乗り越えていくのか?心の持ち方について改めて考えてさせてくれた。2018/03/29
アッシュ姉
80
もう妻でも母でもない。たったひとりで老いと孤独に向き合っていかなければならない。揺れ動き葛藤しながらも、ひとつの区切りをつける敏子。人生はままならず、途方もなく長い。歳を重ねても道に迷い戸惑うけれど、幾つになっても新たな発見があり成長することもできる。女は逞しいのだろうな。これが妻に先立たれた夫の話だったら、まったく違う物語になったと思う。塚本を主人公にした逆バージョンの続編を読んでみたい。おろおろする熟年プレイボーイを見てみたいものだ。2018/02/20
chieeee-
69
桐野作品はいつも最後にもやもやする作品が多い中、この小説は今後の主人公の楽しい生活がイメージ出来た。もちろん、老いていく一方の中で、辛いことや、腹立たしい事も少なくないだろうけど、今まで頼りにしていた旦那様を亡くして、逞しくなった主人公には楽しい生活が待ってる様な気がしてならない。読んでスッキリとし、自分もしっかりと生活していかなきゃ!と思える作品。2020/03/12
ざるこ
60
妻と愛人は修羅場が当然と思ってるから10章「妻の価値」は最高でした。もっとやれ!と思ったけど。不思議なのは妻と愛人、両方の立場で感情移入してること。どっちも違う形の虚しさ。遠慮と言いたいことも我慢するかしないかって不安定さも心理描写が巧い。そして両者に対する夫の気持ちも。立派な人間なんてそうそういないよなと思う。やってもやらなくても後悔するし、正しいも間違いも後になって気付いたりする。友人も子供もみんな繋がってるようだけど人は結局「個」の生き物。自分の感情を素直に受け止めながら生きて行けたらいいなと思う。2020/09/29