内容説明
小さなレコード店や製函工場で、時代の波に取り残されてなお、使い慣れた旧式の道具たちと血を通わすようにして生きる雪沼の人々。廃業の日、無人のボウリング場にひょっこり現れたカップルに、最後のゲームをプレゼントしようと思い立つ店主を描く佳品「スタンス・ドット」をはじめ、山あいの寂びた町の日々の移ろいのなかに、それぞれの人生の甘苦を映しだす川端賞・谷崎賞受賞の傑作連作小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
330
最近はあまり用いなくなったかもしれないが、「純文学」というジャンルがこれほどにぴったりとあてはまる作品も珍しいだろう。表題通りに雪沼とその周辺地域の日常がしんみりと語られていく。いくつかの文学賞を得ているが、いかにも玄人好みの作品。篇中では「イラクサの庭」が一番好きだ。2012/03/31
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
190
これは読んでるそばから面白い!続きが早く読みたい!っていう類の本ではない。7編の短編のうちのひとつをゆっくり読んで本を閉じる。思い返して、改めてじんわりと沁みてくる。架空の土地であるはずの雪沼の情景が瞼の裏に浮かび、その土地で派手ではないがしっかりと年月を積み重ねてきた人びとのことを、まるで好ましい隣人のように思い返す。 小さなスキー場のある、寂れた商店街をもつ雪沼。どこか唐突に終わる結末はそれから続く人生の続きを予感させる。イラクサの庭、送り火、レンガを積むが好き。レンガ〜のレコード店に行ってみたい。2018/09/05
酔拳
144
雪沼という、架空の地域で暮らす人々を7編の短編で描かれています。 7編は別々の話ですが、随所に、前でてきた、料理教室などでつながっているところが、斬新だった。 今風ではなく、ちょっと、田舎町で暮らす人たちが描かれていて、それぞれの登場人物の人生をうまく描きだしている。 文章の構成がうまくて、溜息がでそうでした。 特に、送り火の話がよかったです☆2015/12/15
はっせー
135
この本を一言で言えば上品な世界である。どこかノスタルジックで優しい自然光のような雪沼という地を舞台にした短編集。どのお話も緩く繋がっている印象がある。スキー場だったり料理教室だったり出てくるものが似ている。しかしそこまで深くも繋がっていない。この緩さがいい!どのお話もすごい事件が起きるわけではない。日常の一部をくり抜いたようなものである。その中に人の温かさや自然の無常さなどが散りばめてある。どの短編も心に残り、すごく楽しめた。そして上品な世界を作り出している堀江敏幸さんの本をまた読みたいと思った!2021/11/09
seacalf
125
堀江敏幸さん初読み。 ほんのり温かいかたまりを仄かに感じさせ、でもふっと飛ばされるかのように、その温かみは離れていく。だけど、さみしさはない。そんな印象を持たせる短編の数々。 2016/10/18