内容説明
旅先で、風切羽の折れたカラスと目が合って、「生き延びる」ということを考える。沼地や湿原に心惹かれ、その周囲の命に思いが広がる。英国のセブンシスターズの断崖で風に吹かれながら思うこと、トルコの旅の途上、ヘジャーブをかぶった女性とのひとときの交流。旅先で、日常で、生きていく日々の中で胸に去来する強い感情。「物語を語りたい」―創作へと向う思いを綴るエッセイ。
目次
向こう側とこちら側、そしてどちらでもない場所
境界を行き来する
隠れたい場所
風の巡る場所
大地へ
目的に向かう
群れの境界から
物語を
著者等紹介
梨木香歩[ナシキカホ]
1959(昭和34)年生れ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaizen@名古屋de朝活読書会
197
解説最相葉月。報告者(ルポライタ)だけあって、著者のことをうまく描写している。小説だと思って読んでいた。随筆という感想を見てびっくり。随筆にしては間接的な気もする。他の手を動かす仕事をしながら、文章も書いているような感じ。 途中で挫折したので解説を読んでから、また読み進めたら、解説に書いてあったところは理解できた。2013/07/06
SJW
177
梨木さんのエッセイ。自然の話が多いかと思ったが、梨木さんのぐるりのこと(身の回りのこと)について、軟硬両方の表現で興味のままに描かれている。興味深い話もあるが、話の焦点がコロコロと変わり、ついていくのが大変だった。2018/11/29
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
172
こんな風に、皆がなんとなく避けて通る宗教の話とか政治や事件の話なんかに真っ直ぐに向き合って、忌憚なく意見を述べるなんて、梨木さんはなんて純粋で、なんて誠実でひたむきな人なんだろう。 綺麗な気持ちだけを持って、人の悲しみに敏感で手を差し伸べることができ、他人の大切にしているものを馬鹿にすることなく、理解できずとも尊び、感受性を豊かに、美しいものを美しいと周囲の目に囚われず素直に口にし。そういう風に生きれたらいいのに。 汚れつちまつた悲しみに。心を洗い流せたらいいのに。まっすぐな精神で生きたいと願う。2019/04/28
ヴェネツィア
170
表題は、自分の「ぐるり」(周縁)のこと、という意味なのだが、筆者の想いは自分の身近な範囲から、時にはイギリスへ、そしてまたアメリカへ、アフガンへと拡がっていく。あるいは、彼女の出身地である鹿児島(薩摩藩)が背負っていた歴史的な構造を語り、さらにはそこから西郷隆盛論へと展開する。そして、最終的には「ぐるり」の中心にある『私』(個)へと帰着してゆくのである。それはまさに、銀河の渦のように回転しながら中心に収斂していくかのごとくだ。2012/03/14
ケイ
149
まず一つ目からびっくり。彼女は独特の感性と感覚を持っている。通りすがりの母親が思わず発した「きれい」だとの言葉に彼女は呼応するので、母の発言を恥ずかしそうに去る息子を残念に思う。それがお隣との境界問題に発展するのだ。こういう飛躍は彼女の感性のなす所以。女性とは議論できないと男性が言うことがあるが、こういう場合をさすのかと思った。エッセイ8個は、どれも彼女の哲学内においては同次元で論じられるが、一般には結びつけはしないことたちだ。奇異に思わないのは、彼女の感性が生み出す文章があまりにも美しいからだろう。2016/05/24