出版社内容情報
山本 周五郎[ヤマモト シュウゴロウ]
著・文・その他
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
404
この巻でも主役は原田甲斐なのだが、中巻とあって、読者の視点は他の人物たちにも及ぶような筆方の工夫が身を結ぶ。直接に言及されることはないが4代将軍の家綱、幕閣の面々、伊達家の重臣たち、軽輩から浪々中の人々。そして、それぞれの状況に置かれた女性たち。そうした人々の喜びや哀しみが群像としてではなく、あくまでも個の痛みとして表出されるあたりが、まさに山本周五郎作品が他に抜きん出るところだろうか。読むほどに切なさ、やるせなさがつのるのであり、それは時の隔たりを超越するのである。 2019/07/06
遥かなる想い
210
中巻は伊達藩取り潰しを図る幕府酒井雅楽頭と 阻止しようとする 原田甲斐との攻防を描く。 時折 挿入される庶民の出来事が いかにも 山本周五郎らしく 情にあふれる …伊達家安泰のために ぶれない原田甲斐の 勁さが印象的な中巻だった。 2018/08/11
みも
188
いかなる窮地に遭遇しても、泰然自若とした立ち居振る舞いを崩さない原田甲斐。この巻は「くびじろ」なる大鹿との命を賭した圧巻の格闘シーンから始まる。ここには粛然たる彼の内面に燃える炎の発露がある。この大鹿の死に愕然とし、その尊厳を貴び哀惜するシーンが、甲斐その人の人生観を見事に具象化する。甲斐を取り巻く人々の造形も逸話もそれぞれに個性的で印象的だが、それらは全体に於いての【点】。その点を「断章」という【線】で繋ぐ至妙な手法。ここから露になる不穏が、暗闇に広がる濃霧の如くじわじわと立ち昇り、僕の心に鉛を落とす。2020/04/30
やま
125
仙台藩伊達家62万石で起こったお家騒動「伊達騒動」の第2巻。伊達家重臣・原田甲斐は、徳川幕府老中・酒井雅楽頭が亡くなった松平伊豆守の命を守り、伊達家を内部から崩壊させて取り潰そうと謀っている…と推測する。伊達兵部と酒井雅楽頭の間に伊達領のうち30万石をこと成就の暁には、伊達兵部に…という取り決めの証書が取り交わされる。登場人物が多く、その人達を表現豊かに描いています。特に女性の描き方が悩ましく、せつなく、妖しく…誰もが核心に触れる言葉を言わないのに、その事を表現しています。素晴らしい表現力です。2021/10/11
びす男
99
「言葉が役に立つか」「耳や眼は騙されやすい、真偽をくらますことは、さしてむずかしくはない」。信じろ、とも言えないまま相手の懐に入り込んでいく原田甲斐。1人で背負いきれる荷なのか、読者の不安にすら知らん顔をして、彼は1人きりで歩んでいるように見える。2017/11/03