内容説明
どこにも関係のない、どこにも属さない一人の人間としての時間―それは、人間を人間としてよみがえらせ、より大きく育て上げる時間となるだろう。「無所属の時間」を過ごすことで、どう生き直すかを問い続ける著者。その厳しい批評眼と暖かい人生観は、さりげない日常の一つ一つの出来事にまで注がれている。人と社会を見つめてきた作家の思いと言葉が凝縮された心に迫る随筆集。
目次
お叱りの手紙
日帰りの悔い
子猫とナポレオン
慶弔積立金なんて
ヴェネツィアと黒衣
組織を超え、光の中へ
自分を見物する心
東京での一日
一日四分割法
途方もない夢〔ほか〕
著者等紹介
城山三郎[シロヤマサブロウ]
1927‐2007。名古屋生れ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎えた。一橋大卒業後、愛知学芸大に奉職、景気論等を担当。1957(昭和32)年、『輸出』により文学界新人賞、翌年『総会屋錦城』で直木賞を受け、経済小説の開拓者となる。吉川英治文学賞、毎日出版文化賞受賞の『落日燃ゆ』や『毎日が日曜日』『もう、きみには頼まない』『指揮官たちの特攻―幸福は花びらのごとく』等、多彩な作品群は幅広い読者を持つ。2002(平成14)年、経済小説の分野を確立した業績で朝日賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ふじさん
84
無所属生活6年。無所属の時間をどう過ごして来たか、特別なことはなかった気がする、ただ淡々と過ぎた感じだ。「一日に一つでも、爽快だ、愉快だと思えることがあれば、それで「この日、この私は、生きた」と思えたらよし、作家の一文に同感を覚える日々。厳しい批判眼と温かな人生観は、日常のさりげない出来事にまで注がれる。彼のお別れの会で弔辞を詠んだは、作家の辻井喬、評論家の佐高信、作家の渡辺淳一の三氏、彼の交友関係の幅の広さがこのエッセイ集の内容にも独特の趣きを与えている。 2022/02/14
団塊シニア
53
余分なことはしない、肩を張って生きない、争いを買ってでない、気を遣わない等「省事」に徹し「一日一快」でよしという作者の人生観、価値観はまさにどこにも属さない無所属の人間だからこそできる生き方かもしれません。2014/11/05
馨
32
城山さんが生きてきた無所属の時間の中で大切な事柄が沢山書かれていました。地獄のようだった海軍時代も振り返ってみると幸運?なことだった、なんて過ぎてから考えられるようになるものなんですね。私もその時その時辛いことでも後々あれは私を作るのに必要な幸運な経験だったと思える時が来ると思って過ごしたいと思います。また、人が生きてきた世界や生活ってその人の顔にどうしても表れてくるという事実にはドキリとしました。2013/04/26
ユズル
31
どこにも関係のない、どこにも所属しない、自分一人の時間…私がその時間を得られるのは恐らく大分後の話だと思われます。何も良いことのなかった一日の終わり、眠りにつく時間まで好きな本を読む。“一日一快のすすめ”は嫌がおうにも所属せざるを得ない現代の働き人に出来そうなことだし、努めようと思います。2015/05/17
ひと
24
仕事に集中する午前中の黄金の時間、仕事の仕込みの時間にあたる昼からの銀の時間、夕刻から夕食後のフリータイムとなる珊瑚(餐後)の時間、自由な読書の時間でもあり、ぼんやりもの思いにふける神授(真珠)の時間、これら一日四分割法による城山氏の一日の過ごし方を知ることができたのが一番の収穫でした。無所属の生き方への憧れもありますが、無所属で自分はやり切れるのか不安もあります。これからはさらに平均寿命も伸びるでしょうから、無所属になる準備は少しずつ進めておきたいと思います。無所属でも仕事ができるようになりたいですね。2017/02/11