出版社内容情報
遍在する自殺の機会に見張られながら生きてゆかざるをえない“われらの時代”。若者の性を通して閉塞状況の打破を模索した野心作。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
359
高校生の時以来の再読。「戦後」(ただし、かなり長いスパンでの)といった時代状況を強く反映する。「遅れてきた青年」(大江には同名の小説もあるが)といった認識は、三島にも強く(三島が10歳上)あり、文学の質や向かい方は大いに違うものの、やはり同時代性を感じずにはいられない。一方で大江のサルトルへの憧憬は作中の"engagement"にも顕著なのだが、その挫折を描くところに我々読者は強烈に惹き付けられたのであった。また、もう一つ大江の優れたところは、作中の数々の(多くは淫猥なのだが)比喩表現の斬新さにもあった。2017/08/06
遥かなる想い
115
60年代の若者は何を考え、行動していたのか。初期の大江健三郎の作品は迫力があり、難解は難解だったが、読んでいて奇妙に興奮していた。現状の問題を「時代」の問題と捉え、行動していたのだろう。閉塞感を打破するような若者らしい無謀な、ほとばしるような勢いが感じられる。政治に、恋に、性に暴走した若者たちを「時代」という概念を通して、際立たせている。 2010/06/19
nakanaka
83
大江健三郎の作品の中で一番好きな作品かもしれないです。不快な表現がやたらと出てくるがそれ無しでは主人公の人物像やこの作品の世界観を創れなかったでしょう。あとがきに作者の言葉としてもあるが、「セブンティーン」同様この作品も凄まじいバッシングを受けたであろうことが容易に想像できます。よく書いたなと妙に感心。人間が綺麗ごとだけではなく汚らしい部分も多分に含む生き物であることを改めて実感させてくれる作品でした。正直なところ大江健三郎の思想には全く同調できないが作品は好きだと感じています。2016/03/12
Gotoran
57
自殺だけが唯一の純粋な行動であるが、それを決行できずに悶々と生きていくしかない『われらの時代』。行き詰まりからの脱出を図る兄弟(靖男と滋)。靖男はフランス留学で現状打破を目指すが、外人相手の中年娼婦頼子との愛人関係から抜け切れず。閉塞感漂う中爆発寸前の弟滋とその仲間たちは手榴弾を投擲・爆破で希望を見出そうとするが惨めに失敗に終わり、最悪の状況へと堕ちていく。異様に湿った吐き気を催すような性描写、爆死するバンドマンなど、衝撃的でリアルな筋立ての戦後の若者の閉塞感を描いた大江初期作品を読んでみた。2021/05/04
ころこ
53
以前、ハードボイルドが好きな知人が初期大江を好きだと言っていたことを思い出す。若者に身体性の自覚があれば、暴力と性に行き着くことは容易に想像できる。そこから地続きに政治があることを大江は包み隠さない。筋肉と性器、精虫と吐瀉物、人間と動物が地続きであり、また右翼と左翼にも境界は無い。各々の生い立ちや境遇に突き当たっているだけで、連帯よりも自由や孤独を選ぶ。実は政治思想なんて無いし、われらの時代なんて無い。なぜなら、われらの時代はあらゆる世代にあるからだ。誤解させるタイトルで随分と損をしているのではないか。2023/11/27