内容説明
ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。もういない、わたしの弟。―天使みたいだった少年が、この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。残された古いノートには、痛いほどの真実が記されていた。ある雪の日、わたしの耳に、懐かしい音が響いて…。物語作家いしいしんじの誕生を告げる奇跡的に愛おしい第一長篇。
目次
ひねくれ男
空中ぶらんこの原理
手を握ろう!
おばけの涙
半分の犬
油断するなよ
歌う郵便配達
ローリング
若いってのはいいね
サルのお祭り〔ほか〕
著者等紹介
いしいしんじ[イシイシンジ]
1966(昭和41)年大阪生れ。京都大学文学部仏文学科卒。2000(平成12)年、初の長篇小説『ぶらんこ乗り』を発表。たいへんな物語作家が現われたと大きな話題に。’03年、第二長篇『麦ふみクーツェ』で坪田譲治文学賞受賞。’04年、第三長篇『プラネタリウムのふたご』が三島賞候補作に
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
170
ぶらんこで暮らす、お話づくりが上手な天使みたいな男の子、私の弟。厳しく美しいおばあちゃんと仲睦まじい両親との生活が、弟の話を挟みながら展開していく。 幸せな生活が、しかし序盤から終わりを予感させていて、弟のお話も寂しくて少し怖くて不穏な感じ。嵐のような悲しみを、甘えずに受け入れるということ。「わたしたちはずっと手をにぎっていることはできませんのね」「けどどうだい、すこしだけでもこうして、おたがいにいのちがけで手をつなげるのは、すてきなこととおもうんだよ」わたしたちは誰とも、ずっとは手をつなげない。2018/09/17
ダリヤ
124
よむのは、にかいめ。にかいめなのに、はじめてよむように、わらったり、ないたりした。このなかには、わすれちゃいけない、たいせつなものがつまってる。これをよめば、いつだってうまれたてのように、それがよみがえる。つよい、つよいいんりょくをもって、ぶらんこにのって、つながったりはなしたりをくりかえしながら。2011/10/10
(C17H26O4)
105
いしいしんじの物語はこわいと思う。誰か分かってくれる人いないかな。こんなに優しくて心温まる物語であっても、狂気みたいなものがあると思ってしまう。心の深淵を覗いてしまったような気持ちになる。この物語では、ぶらんこがむこうへこちらへゆれるたびに、あのこの心にいつもある、真っ暗で吸い込まれそうな孤独を想像してしまう。あのこのふるえがひらがなから伝わって、こちらの心を静かに、だけど激しくふるわせる。あのこのつくったおはなしに潜んでいる毒がまわり、優しさで胸が詰まって苦しくなる。10年ぶりくらい、数度目の再読。2020/02/26
chimako
97
何とも不思議な味わいの物語だった。物語中の弟が作るお話は胸がシンとなるような、切ないような悲しいような。この物語自体も物悲しい。突然死んでしまったお父さんとおかあさんから届く絵はがきも素敵なのに悲しい。透明度の高い湖に投げ込まれたような、そんな読み心地。ブランコ乗りの弟は必死に伸ばした手で何をつかもうとしていたんだろう。そして、何を手放したんだろう。2018/12/09
ちょろこ
90
揺れた、揺さぶられた一冊。予想外の展開に、弟の心情、姉の心情に心がゆらゆら揺れた。驚きに哀しみに、せつなさに時には笑いに心を揺さぶられた。くりかえし読む絵はがきがまるで過去と現実とに二人を揺らしているようで、たまらなかった。それでもおばあちゃんが過去に揺れた二人を強く厳しさを込めた手で現実へと押すシーンが心に浮かび、厳しさの裏側の優しさを感じ、少し和らいだ。姉の、信じる想いに寄り添った時、やっと心の揺れも穏やかになった気がする。触れた瞬間を確認する、できる、それも幸せのひとつだと思いたい。2018/09/17