内容説明
昭和四十四年、京都。大学の新入生で、大の日本映画ファンの「僕」は友人の清家忠昭の紹介で、古き良き映画の都・太秦の撮影所でアルバイトをすることになった。そんなある日、清家は撮影現場で絶世の美女と出会い、激しい恋に落ちる。しかし、彼女は三十年も前に死んだ大部屋女優だった―。若さゆえの不安や切なさ、不器用な恋。失われた時代への郷愁に満ちた瑞々しい青春恋愛小説の傑作。
著者等紹介
浅田次郎[アサダジロウ]
51年東京生。「地下鉄に乗って」で第16回吉川英治文学新人賞、97年「鉄道員」で第117回直木賞、00年「壬生義士伝」で第13回柴田錬三郎賞受賞
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かんらんしゃ🎡
59
★通りから一本奥にある仄暗い路地に入りこむと、格子戸脇にぼんやりと行燈が灯っている。ホッとする暖かさと異界に踏み込んだような不思議な怖さを照らし出している。この本はそんな情景と気持ちを抱かせる。★古都を舞台に、人のぬくもりが哀しいほどに伝わってくる。思いは届くが手の届かない異界のものへ。★ゆったりした京都弁とあいまって描写が細やかなのでモノクロームな映像が目に浮かぶ。カメラ位置を意識させて、この物語自体一つの映画だった。2016/08/27
bura
56
東大が学生運動で入試を中止した昭和44年、京大を選択した日本映画ファンの三谷は映画館で知り合った医学部の清家忠昭の紹介で太秦の撮影所でバイトを始める。三谷の恋人、早苗と3人でエキストラに呼ばれた現場で謎の美女と出会う。清家は取り憑かれた様に恋に落るが、彼女は何十年も前に死んだ大部屋女優だった…。浅田次郎らしいファンタジー小説。マキノ省三や山中貞雄ら実在の人物がストーリーに絡んでくるのが映画好きには嬉しい。ただ過去語りが入ると、どうしても次の設定を予感させてしまい展開が見える、それが勿体無かった。2021/08/12
HIRO1970
56
⭐️⭐️⭐️浅田さんにまたやられました。設定は69〜70年頃で丁度私が生まれた頃の京都。京都弁と太秦等の映画撮影所と京大。そして数々の古刹と四季の祭りや風物が関東の者には違和感無く書き出されており、いつもながらムムムと唸らされてしまいました。そろそろ京都に行きたくなる年代に入って来たのかなとも思えます。色鮮やかな紅葉、大文字焼きの盛大に燃えているのに切ない送り火の色彩、そして夕霞が現れるモノクロ映画のセピア色と現世に立ち現れた時の生身の妖艶な色艶のコントラスト。絵を観ているような作品でした。2014/12/20
布遊
54
時は50年前の1年にも満たない期間。場所は京都・映画村。登場人物は京大生の僕と同じ下宿の京大生早苗・下宿屋のおばさん、そしてやはり京大生の清家とアルバイト先の辻さんくらい。それでも、ぐんぐん引き込まれていく。怪談話のようで、夏に読みたかった。映画好きにはたまらないだろうな。2020/04/23
るい
53
粘りつくような暑い夏、ヒヤリと薄暗い部屋と地下室に気だるく暇をもて余す60-70年代の京都の大学生。 ゲバルトも学生運動も興味のないノンポリの主人公が織り成す物語は光と影の対比が強い夏でなければ成り立たない。リアルでもフェイクでも構わない、自分の中にある感情ですら手の平から溢れるように頼りないのだから。 この時代がとても好きだ。そして京都、夏、大学生ぜんぶ惹かれるものばかり。恋愛小説なのにとても面白かった。2020/04/12