出版社内容情報
日本語の泰斗・大野晋は東京下町に生まれ、寄席に親しみ辞書が大好きな少年だった。後年、ベストセラー『日本語練習帳』を生み出した彼の知られざる生涯を描いた傑作評伝。(解説/内館牧子)
内容説明
名著『日本語練習帳』の著者で国語学の巨人・大野晋は、その研究に八十八年の人生を捧げた。東京下町に生まれ、小学校の時に父親から『広辞林』と『字源』を与えられ、大戦下、一高から東京帝国大学に学ぶ。還暦を過ぎてから発表した「日本語の起源はタミル語」であるという研究は、学界論争を巻き起こす。司馬遼太郎をして「抜き身の刀」と言わしめた大野晋の波瀾万丈の生涯を描いた傑作評伝。
目次
プロローグ 熱風
第1章 下町
第2章 山の手
第3章 戦争
第4章 敗戦
第5章 国語
第6章 タミル語
エピローグ 遺言
著者等紹介
川村二郎[カワムラジロウ]
1941年、東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。『週刊朝日』編集長、朝日新聞編集委員などを歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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扉のこちら側
80
2016年566冊め。タイトルの「孤高」という言葉の持つ印象よりも親しみを感じられる内容だった。経済的に恵まれなかったために山の手育ちの同級生たちにコンプレックスを持っていたという。しかしこういう伝記を読むと、後世に残る偉業を成した人は、折々に助けてくれる人との出会いがあって、まさに運に恵まれていることに驚かされる。伊藤忠兵衛(二代目)がスポンサーだとは。当時の旧制中学高校大学時代の雰囲気が楽しめた。どうやら祖父の後輩らしい。(続)2016/07/17
bapaksejahtera
12
「抜身の刀」の如き性格で高齢に至るまでの生気溢れる活動に及んだ大野晋の評伝である。大野については上代仮名遣いの研究や万葉集等古典校注、更に私には最も合理的だと思えた連用形を見出し語にした岩波古語辞典の編者として敬意を払っていた。日本語レプチャ語起源説には首を傾げたが。終生国語国字問題を始め日本語の来し方行く末その他に関心を払い、著述に留まらず多方面で活躍した熱血漢である。狭い学問領域の固守が習いの学者社会から反発誤解も多かったろう。Wikiを見ると記載の大部分がレプチャ語関連に費やされている。妥当ではない2021/05/18
蛇の婿
12
日本語の源流の一つがタミル語であるという賛否はともかく、カナモジカイとRomajikaiの悪夢のような存在や当用漢字設定のアホらしさにはとにかく愕然としました。戦後にそんなことがあったのか…今はもうお隣の国が漢字を捨てることの弊害を身をもって示してくれていますからそんなことにはならないでしょうが、(過去の自国の歴史が一般人は当然として、大学教授ですら理解できなくなる)万が一そうなっていたらと考えるとかなりゾッとする事実です。国語の授業時間を増やすべきという主張には大賛成。たいへん勉強になりました。2016/08/31
詩音
6
「日本語が曖昧だ、って言うのは、日本語の文法をしっかり勉強していないから。」「漢字が使えないから、造語能力をなくして、カタカナをそのまま使うようになった。」「日本語が話せて、日本語の読み書きができる。その程度で言葉がわかると思うな。」「学問とは深めれば深めるほど、自分にわかることがいかに少ないか、わかってくる。」スゴすぎるパワー、情熱、行動力。日本語の起源がタミル語である、という主張は、先生のご逝去と共に語られなくなったが、優れた研究は300年後も色褪せないはず。日本語練習帳、買いなおそう。2016/07/11
Ikuto Nagura
6
『日本語の起源』や『日本語練習帳』で著名な大野晋の評伝。恵まれた家系の「多力」の同級生や、山の手の生活へのコンプレックスが学究の動機になったというのが、とても人間臭くてよい。契沖の『万葉代匠記』を読み「本物の学問というのは、300年くらいでは古くならないんだ。これは大変だと思ったよ。学問の道が大変なものなんだということを思い知った」という衝撃や、東大で恩師から受けた厳しい指導により、大野が科学的方法論を身に付けていく過程に、現代学生との差異を考えてしまう。でも、これを祖国愛に帰結させる解説は気に入らない。2015/12/08