出版社内容情報
会社を支えてくれる国際弁護士・戸倉への想いに悩むかおり。まったく新しい生き方を模索する夏彦。それぞれの愛の形、それぞれの人生。さまよえる二人に魂の救いはあるのか…。宮本文学の傑作。(解説/唯川 恵)
内容説明
戸倉陸離に支えられ、“モス・クラブ”を経営していくかおり。次第に、彼への想いが抑えられなくなっていく。同時に彼もその気持ちに気づき、大切に思うが故に距離を置く。夏彦は会社から身を引き、まったく新しい自分の人生を歩み始める。そんな時、会社ではある陰謀が進行していた。それぞれの人生、それぞれの愛の形。そして彷徨える二人の魂に救いはあるのか…。宮本文学の傑作長編小説。
著者等紹介
宮本輝[ミヤモトテル]
1947年3月6日兵庫県生まれ。77年『泥の河』で第13回太宰治賞を受賞しデビュー。78年『螢川』で第78回芥川龍之介賞、87年『優駿』で第21回吉川英治文学賞を受賞。2004年『約束の冬』で第54回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門を、10年『骸骨ビルの庭』で第13回司馬遼太郎賞受賞。また同年、紫綬褒章を受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ろくせい@やまもとかねよし
185
(上巻からの続き)インテリ層は恋愛に方法があると風聴する。それは慣習から脱した進歩的な快楽と形式との折衷だと。しかしそれを陳腐でしかないと喝破。性的な慣習を権力構造を変化させただけの焼き直しだと。徐々に志向は「幸福」に向かう。発見は人間は不幸と幸福の谷間から何かを学ぶこと。その幸福も優越の比較から定義されるものではなく、多様であるべきだと。「海岸列車」は無力感を想起する海に沿って走り、際立った孤独感を自覚する長いトンネルも走る。そんなどう仕様もない中でも、私利私欲ではない幸福が生の依りどころだと表する。2020/02/07
扉のこちら側
57
初読。2015年737冊め。上巻はさほど好みではなかったが(かおりの言動が好きではなかった)、下巻にきていい展開になった。「ぼくは、それを知ったとき、人間には、生と死以上に大切なものなんてないと思った。生と死をめぐって、人間の妄想が、どうどうめぐりをしてる。でも、おんなじように、生と死をめぐて、奇跡みたいな実体も動いてる」(P.119)2015/07/03
ぶんこ
47
安易に不倫にはしる男女への憤りゆえに書かれたようですが、読んでいて一番感じたのが、不倫されて苦しむ妻・子への思いやりや、罪悪感が無い所。 陸離さんも、特にかおりさんに顕著でした。 自分の事は棚に上げての記載が多く、苦笑すること多し。 石越さんへの不倫解消を迫り、解雇にまで言及する世間知らずの若い会長。 たまたま自分達は体の関係にまではならなかっただけで、危うかったのに。 自分の事は都合よく忘れる。 かおりさんや陸離さんに対する違和感が最後まで抜けませんでした。 2015/05/14
ココ
34
一気に読み終わって、改めて気付いた。私は、宮本輝の文章が好きだ。しっとりと優しい。年齢も追いついて来たのかもしれない。次に読む作品を探そう。2017/12/06
まーみーよー
28
良かった!言語化できない程の圧倒的な読後感。上巻の、不倫、中年女のひも、バブル時代の有閑マダム向けの社交クラブ、金銭の心配のない所で空虚に生きている兄妹等々のエッセンスから下巻を若干心配したのだが、すべてが作者の思惑の内だった。それぞれのパーツがタイトルの「海岸列車」で繋がれたような感覚。「生と死をめぐって動いている奇跡みたいな実体」「絶対的な幸福感のしっぽ」「私利私欲を憎め。私利私欲のための権力と、それを為さんとする者たちと闘え。」「人間にはすごい復元力だとか甦生力がある」等の言葉がささりました。2021/08/19