内容説明
東北の静かな山村に、日本最大のダム建設計画が持ち上がった。交渉のため村に乗り込む開発側と、先祖伝来の土地に愛着を抱く住人たち。多額の立ち退き補償を巡り、村は賛成派・反対派に分かれ騒然となる。ダム建設は、人々に何をもたらすのか。高度経済成長黎明期の1959年に執筆された傑作社会派小説。
著者等紹介
城山三郎[シロヤマサブロウ]
1927年愛知県名古屋市生まれ。東京商科大学(現・一橋大学)卒業後、愛知学芸大学(現・愛知教育大学)などで教鞭をとる。’59年『総会屋錦城』で直木賞受賞。その後、作家活動に専念する。2007年死去、享年79(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かんらんしゃ🎡
56
★ああ、ミダス王。ダム開発で立退きになる山村。庭木も庭石もすべて補償される。ならばと住民は川から石を拾ってきてちゃっかり庭石にしてしまう。手に触れるものがすべて金に変わるのだ。突然のゴールドラッシュに沸く。でも個別交渉に入れば猜疑心と近隣の目に疲弊し、心乱す王の人間ドラマが展開する・・・筈なのだが。★公の大義と私の権利。そのせめぎあいが読みどころなのに、作者は公の目線で淡々と民を語るにすぎない。一番振り回されるのはいつも住民なのに。2019/03/21
まつうら
44
ダム開発のため湖底に沈められてしまう村の人々の思いを描いた作品。立ち退く人々のために補償金が支払われるが、これがなんともすごい金額だ。ダムと決まれば、土地ばかりか庭石や立木もが黄金に変わってしまい、作中では1000万円の補償金となっているが、現在の価値にすると3億を超える。これだけのカネを目の前にしたら、肥沃な耕地とか代々続く伝統文化とか、村民がこだわっていたものが全部吹っ飛んでしまうのもわからなくはない。こんな風に人間の欲望があらわになる姿を、解説者は残酷だと評するが、正直で憎めないなと感じてしまった。2023/01/12
糜竺(びじく)
27
ダムに沈む村の補償金にまつわるストーリー。お金によって、人々の人生が変わっていく。2022/02/26
米菓
10
官僚たちの夏を読んでから、この人の他の作品も読みたくなった。 本作はダム建設がテーマ。様々な思惑が入り乱れながらも着々と建設が進んでいくさまを描いている。 読む前のイメージとは違ったけれど面白かった。2019/12/24
ハパナ
6
ダム建設における補償交渉の過程で、湖底に沈む戸倉村民達の揺れ動く気持ちとその顛末を書いた本です。学童疎開で戸倉に住んだ事があり、立ち退きを勧告する立場の若林。さぞかし苦悩があるだろうと思いましたが、職業人故の基本的に淡々とした所が意外でした。豊かさとは何なのか。変化の中で貫く事への矛盾感と、端から見た幸福感が感じられる内容です。読後感としては”蒼氓”に近いと思いました。2016/12/01