出版社内容情報
村上 春樹[ムラカミ ハルキ]
著・文・その他
佐々木 マキ[ササキ マキ]
著・文・その他
内容説明
図書館で「オスマントルコ帝国の税金のあつめ方について知りたいんです」とたずねたぼくに、老人の目がきらりと光った。案内された地下の閲覧室。階段をおりた奥から、羊男が現れて…。はたしてぼくは、図書館から脱出できるのか?村上春樹と佐々木マキが贈る、魅力溢れる大人のためのファンタジー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
264
読み始めた途端に、アレッと思う既視感。『カンガルー日和』所収の「図書館来奇譚」の改稿絵本版だった。ここでは佐々木マキとのコラボレーション。『海辺のカフカ』を読んだばかりだったので、不条理感が際立った。ただ、それはけっして怖くはない不条理で、いわば安倍公房のような明るいながらも奇妙な不条理という感じだ。また、時間や空間のねじれや交錯など、『ねじまき鳥』や『海辺のカフカ』などとも共通点を持っていたりもする。2012/09/01
海猫
227
「ふしぎな図書館」と同じ村上春樹・文、佐々木マキ・絵のコンビの絵本「羊男のクリスマス」を最近、再読したので、この本には面食らう。図書館の地下に迷路があってその奥の牢屋に監禁されるというのが、なんとも不穏。イラストにグニャグニャ感あって妖しい雰囲気。見えたり見えなかったりする美少女が出現するのは、ホラーっぽい。一番面食らったのはやはりラストで、とにかく切なさ喪失感が押し寄せてくる。不穏さ妖しさは「羊男のクリスマス」にもあったけどあっちはハッピーエンドだし。でも心に穴の空いたこの寂しさは、なぜか悪くないです。2020/10/22
ダリヤ
134
こんなふうに、わたしたちはいきているあいだに、うんわるく、わるいことにまきこまれちゃうことってたくさんある。すごくこわいはなしだった。2011/05/30
ハイク
131
読み進めていくと少し前に読んだと思い、巻末を見ると「図書館奇譚」の改稿と記されていた。今回は内容もよりファンタジーな雰囲気を持つ。主人公の「ぼく」が図書館に本を借りに行く。気難しやの老人が応対する。案内されたのは迷路となっている地下の独房であった。羊男が世話をしてくれる。美しい少女が応対してくれる。この3人が脱出を計るストーリだ。「脳みそを吸われるのはひどい」との事に「どこの図書館でもやっている。知識を貸すだけなら図書館はソンをするだけではないか」とのセリフは強烈だ。良く思いつく言葉で感心してしまう。 2017/01/03
koji
129
春樹さんの掌編。少し時間が空いたので手慰みに図書館で借りました。しかし掌編といえど侮れません。はっきりした起承転結、お馴染みの佐々木マキさんの挿し絵、「羊男、すてきな女の子、迷路、むくどり、不穏な老人」等定番の道具だての中、不安と不条理の中から少年が大人の階段を昇る人生の一断面を描き、数々の傑作長編のSTORYをぐっと圧縮したような作品に仕上がっています。ここから長編に進むのもよし、長編からここに帰ってくるのもまたよしですね。お気に入りは、羊男が揚げたドーナツの描写。美味しそう。思わず唾を呑み込みました2021/04/24