出版社内容情報
牧野 雅彦[マキノ マサヒコ]
著・文・その他
内容説明
現実の中で闘う思想家、ハンナ・アレント(一九〇六‐七五年)。その主著は、一九五一年の『全体主義の起源』である。しかし、全三部から成るこの大著は、いまだ真に読まれてきたとは言えない。邦訳書が基づくドイツ語版(一九五五年)のみならず、英語で書かれた初版テクストまで遡り、その異同を含めて精緻に読解。ついにアレントの主著の全貌が現れる!
目次
序章 アレントと『全体主義の起源』
第1章 『全体主義の起源』以前のアレント
第2章 ユダヤ人と国民国家―『全体主義の起源』第一部「反ユダヤ主義」
第3章 帝国主義と国民国家体制の崩壊―『全体主義の起源』第二部「帝国主義」
第4章 全体主義の成立―『全体主義の起源』第三部「全体主義」
第5章 イデオロギーとテロル
第6章 戦後世界と全体主義
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
183
ブルジョワが擡頭し、余剰資本とモッブが無限拡大を求める帝国主義が到来する。そうして階級が解体するにつれてマス…つまり共通の利益や共同体を持たない大衆が現れ、植民地競争や汎民族運動を経て人々は「人種」の原理に絡め取られていった。反ユダヤ主義は支配装置に変換され、秘密警察が跋扈する。アレントによれば、反ユダヤ主義は広くマイノリティや無国籍者など「剥き出しの人間」の問題なのだ。今我々が直面する差別や分断もいつ政治に利用されるか判らない。全体主義の恐ろしさ、そして人が共通の基盤に立つ事の意義と難しさを噛みしめた。2023/09/21
(haro-n)
81
難しい内容が、特に第4章後半や第6章に多く含まれる。要再読。しかし、初めてユダヤ人問題や全体主義についてこの本から学んだことで、理解できたことも多い。ユダヤ人の西洋における立ち位置や反ユダヤ主義、国民国家崩壊から帝国主義への変化の過程、人種主義との関連、移民・難民問題、全体主義の仕組み等である。まずはユダヤ人の複雑な歴史的背景を理解したい。そうすれば、反ユダヤ主義についての理解も深まり、人権をどの国からも保障されないマイノリティの存在について考える契機にもなると思う。更に全体主義についても頭の整理が必要。2018/03/08
岡本正行
79
現在、イスラエルとハマスで戦われている戦争、それ以前に、ユダヤ人とアラブ人、それを歴史的に説明するヨーロッパでの反ユダヤ闘争、全体主義とはなにか、それが反ユダヤとどう関連があるのか、正直言って、ユダヤ人への反感が、どのようなものか、ローマ以前から中東で行われていた民族の戦い、アラブとは、実際、その頃、どのような存在だったのか、混在していただけなのか、民族として統一、扱われるものなのか、全体主義がどう拡大したのか、いろいろ知らなったことが多い。共産主義との関連においてもいい本であった。アレント初めて知った2024/01/21
うえぽん
38
政治思想史の専門家が、読まれざる古典の全貌を紹介。全体主義の起源は、一般的にナチズム・スターリニズムと言う全体主義運動・支配の基本構造を明らかにした政治理論書とされるが、著者は歴史的な因果関連探究との見方を示す。階級から脱落したモッブと資本との同盟が帝国主義の下で海外に余剰資本・労働を流出させ、南アなどのアフリカ争奪戦が支配装置としての人種と官僚制を生み、人種観念が人類の平等の理念を拒否する種族的ナショナリズムとなり、反ユダヤ主義と連結したとする。恐怖さえ必要なく人間を内側から支配する体制に震撼するのみ。2023/12/31
koji
20
10数年前、元勤め先の本店営業部で上司として仕えた、私の読書の師から、最近「アレントの全体主義の起源を読み始めたが、そのテキストとし本書が秀逸ですよ。」と教えられ、手に取りました。この師匠はたいへんな読書家で、難解な作品も躊躇いなく読みこなします。黒田寛一、サンデル、カールポパー等よく教えを乞いました。また師は、70年安保時の筋金入りの高校生学生運動家で迫力がありました。また前置きが長くなりました。全体主義を運動論と位置づけ、それを操れる特異な才能を持った者が指導者と説く本書の主張は極めてアクチュアルです2022/09/13