内容説明
第二次世界大戦前後のフランスで、反ファシズムの標的とされた一人の男がいた。「火の十字団」総裁、ラロック中佐。穏健な中道派志向でありながら、なぜファシズムの権化として集合的記憶に刻まれることになったのか?現代も活発に続くファシズム論争に、新たな視座を供する画期的な書。
目次
序章 集合的記憶の中の「ファシズム神話」(死後六〇年経っても;表象としての極右)
第1章 左翼の標的(「火の十字団」の設立;形成される極右イメージ;二月六日事件;ファシズムの案山子)
第2章 右翼からの憎悪(合法の「フランス社会党」へ;「裏切り者」疑惑;自由戦線への不参加;反ラロック誹謗中傷戦線;大戦前夜の党勢拡大)
第3章 ヴィシーとレジスタンスの狭間で(単一政党の拒否;曖昧な指導者;対独協力はせず;ラロック逮捕)
第4章 名誉回復への道(獄中の二年半;死後の屈辱;集合的記憶との闘い)
著者等紹介
剣持久木[ケンモチヒサキ]
1961年、東京都生まれ。上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程単位取得退学。現在、静岡県立大学国際関係学部准教授。専門はフランス現代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nranjen
4
非常に素晴らしい本、研究だと思う。ずっと謎だった火の十字団という存在。この本はこの結社(フランス社会党)指導者のフランソワ・ド・ラロックの政治家半生によって、その概略を示している。残念なのは火の十字団自体の活動の沿革はあまり触れられていない点だ。しかし何よりも火の十字団の謎は、戦後の政治的変遷により真の姿が誤解されているからだということがわかった。ドイツ軍の捕虜となり、対独協力者として獄中死する。しかもファシスト呼ばわりされるが、右派火の十字団は極右ではなかった。だからこそやはり党の変遷自体が知りたい。2019/05/16