内容説明
「天下の台所」大坂の町人が、日本の知を覆す。天才言語学者富永仲基、「無神論者」山片蟠桃―自らの理性のみを武器とし、一切の偏見から自由な思想を展開した懐徳堂同人たち。一八世紀大坂に開花した「近代的知性」の軌跡を描く。
目次
第1章 町人学問所懐徳堂
第2章 江戸対大坂―知の権威への反抗
第3章 富永仲基―夭逝の天才学者
第4章 中井履軒と上田秋成―夢と虚構の世界
第5章 心学と懐徳堂―二つの『かわしまものがたり』
第6章 武士無用論―中井竹山の『草茅危言』
第7章 近代的知の濫觴―懐徳堂の洋学
第8章 理性と合理主義―山片蟠桃『夢の代』の世界
著者等紹介
宮川康子[ミヤガワヤスコ]
1953年東京都生まれ。神戸大学文学部卒業。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。千葉大学留学生センター助教授を経て、現在、京都産業大学日本文化研究所助教授。専攻は日本思想史、文化理論
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感想・レビュー
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きいち
28
江戸の思想、いや日本の思想史に対する見方を変えてくれる。◇古典を至上とせず、世の中変わるんやから考え方も変わっていって当然、そして、どの個人も世界全体を理解しようとすることができる…そんな、限界をわきまえたうえでの理性への信頼。どこのだれだ、日本には個の伝統も対話の伝統もないと言ったのは?僕らは大丈夫じゃないか、こうやっていちど経験してるんだもの。◇興味が湧いたのは懐徳堂と適塾、儒教と蘭学をつなぐところに登場する「麻田剛立」という科学者。弟子に高橋至時、ということは伊能忠敬の先生やん。もっと知りたくなる。2015/06/11
姉勤
27
武士のまちとも言える江戸とは違い、町人のまちとも言える大阪の、経済や自由さに基づいた気風から生まれた学問所「懐徳堂」。当時の大家とされる荻生徂徠や伊藤仁斎に対し、のちに官営となったが民間の知として反証や反論を憚ることなく展開していく。富永仲基、中井履軒・竹山、山片蟠桃と興味深い人物。のちの幕末、明治へ続く革命の暴走を、他国に比べある程度制御できたのも、彼らの様な民間人の知のベース成熟していたから。加えて経済的な安定という、知的成長を育める環境があったからだろう。今はどうか。2023/01/24
うえ
4
富永「仲基は、仁斎と徂徠という、同時代の日本の儒学の動向のなかに…「加上」の法則をみいだしていたのである。朱子の注釈によらず、孔子へ帰れと主張し、孔子の言葉を読み解くために孟子を尊重した仁斎に対して、徂徠は孔子よりさらに古い時代の先王の道へ帰れと主張する。これこそ仁斎学を凌駕しようとする加上の法則そのものではないのか。仲基の処女作『説蔽』に、このことが詳説されているとすれば、若き仲基が加上の法則に到達したのは、眼前にくりひろげられた仁斎学に対する徂徠の思想的挑戦を見ることによってではなかったか」2022/09/13
いのふみ
2
徂徠学や石門心学にケンカを売ったり、公権力に対抗したりする、戦闘的な大阪商人の性質はあるが、市井のダイナミズムは感じられる。東京―大阪という単純な構図を用いると分かりやすくなる。2017/08/01
tatsuki
1
上田秋成に関してはまた何処かの書物で再会したい。寓言論、アイロニー。逆に仲基は研究書自体少ないみたいだからなあ。石門心学はプロテスタンティズム的だなと思った。借り物なので、いつものようにインデックスペタペタやラインやメモを取れなかったのが少しストレスな読書体験でした。2015/02/15