内容説明
文学者・思想家の「身体的なもの」をたどりつつ、「大」「新」「高」を手がかりに、大逆事件、経済新体制、高度成長など近代日本の生態のありように立ち向かった意欲作。筆者世代の七二年体験をふまえた思想の可能性がここにある。
目次
第1章 歴史感覚の回復(百二十五年の孤独;三つの結節点;見取図)
第2章 「大」の膨張(大逆事件で消えるもの;明治的なるもの;イデオローグ徳富蘇峰)
第3章 1910年の閉塞(しぼみの経験;へなぶりと低徊趣味;燈台守の寓意;『桃色の室』から荷風の『四畳半』へ;日本の分裂)
第4章 「新」の切断(イデオローグ吉野作造;新人会から新官僚へ;福本和夫と小林秀雄)
第5章 「高」の密度(高度国防国家と高度成長;一九四一年の封鎖;イデオローグ笠信太郎;花田清輝の通過;檻のなかの楕円)
第6章 「中」のまどろみ(「大」の消滅;生長の停止;「大衆の原像」のむこう)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
∃.狂茶党
9
マイナーな戯曲に、意味を見出すが、いわゆる流行り物、通俗娯楽がほぼ出てこないのは、変な気もします、むしろ作家・社会の迂闊な姿はこういったものに現れるのではないでしょうか。 これは意識せざる階級意識ではないか? 純文学は高い緊張で虚構を編むものでしょう。 読みやすく密度も心地いのですが、2022年から読んでいくと、1994年ののどかさを感じる。 この分析は、今でも有効でしょうが、まだ何か、人を信じる楽天性を覚えてしまう。事態は過去よりも一層愚劣に韻を踏む。2022/06/13
さえきかずひこ
6
込み入っている、というのが第一印象。読み物としていちばん面白かったところは、武者小路実篤『桃色の室』を通して彼の大逆事件への複雑な思いを明らかにするところ。文学から政治や経済の話を融通無碍に往き来して描かれる近代日本を批評する一冊。そのためのキーワードが「大」「新」「高」という漢字の概念というところ、また国家を膨らむパン種に喩えるところは親しみやすく良かった。2017/05/11
えりえり
0
東日本「大」震災という言葉に違和感を持ったので、読みました。地震から津波から電力関係やら色々をごったに処理してしまえ、という含蓄があると感じます。日本では身体的なものが主となる価値観であること。過去を踏まえて自らの有様を自覚すること。思想、哲学こそが現状を変えうること。大という言葉は、日本が生長を始めること。これからの日本は新たな生長を始めるのでしょうか。2012/05/23