内容説明
救急医療、性転換手術、拒食症・過食症、美容整形、動脈硬化遺伝子の発見とアルツハイマー病研究、体外受精と凍結受精卵による不妊治療。現代医療の現場から見えてきた、人間が可能になったこと。「やせて美しくなりたい」「元気なままで長生きしたい」…欲望する脳の人体改造願望に翻弄される、私たちの身体と医学の現状。大宅賞作家が、いま医学で起きていることを克明にレポートする。
目次
第1章 背中合わせの“死”
第2章 “性”の揺らぎ
第3章 “食”の暴走
第4章 “形”の革命
第5章 “老い”の逆説
第6章 “誕生”の曲がり角
著者等紹介
野村進[ノムラススム]
1956年、東京都に生まれる。上智大学外国語学部を中退。1978~1980年、フィリピン・マニラに留学。帰国後、『フィリピン新人民軍従軍記』(晩声社)を発表し、ノンフィクション・ライターに。以来、アジア・太平洋関係のレポート、先端医学、バーチャル・リアリティなどの科学報告、各界の人物論などを手がけてきた。1997年、『コリアン世界の旅』(講談社+α文庫)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞と第19回講談社ノンフィクション賞を、1999年、『アジア 新しい物語』(文芸春秋)で第11回アジア・太平洋賞を、それぞれ受賞した
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HALI_HALI
5
「脳」偏重の世の中が抱える問題。人間にとって「体」、「環境」、「脳」の最適なバランスとは何なのだろうか。本書では死、性、食、形、老い、誕生、という6つのテーマで構成されている。共通するのは全てのテーマは両極端の2項対立、例えば生と死、では捉えきれないという事。両者は線で結ばれており、その間に位置する存在があるという事。明確な境界線などは無い。それを無理矢理に単純明快分類、操作をしようとする事で人間は様々な問題を抱えている。人間やそれを取り巻く世界は単純では無い。2017/08/26
すうさん
3
この本は、医学の本なのだろうか。現代の人間の欲望を医学という切り口で切ると、様々な哲学的な現象が見えてくる。神の領域に近づくことで、命のミクロとマクロが見える。しかし医学や生物学のみならず、現代の科学の大半は「わかればわかるほど、わからない点が多すぎることに気づいたにすぎない」に辿り着く。人間を取り巻く全ての生命現象は、絶妙なバランスで生と死を繰返しながら、まるで螺旋状の輪廻を生きているように思えた。科学の探求は哲学的な答えを引き出す。またひとつひとつのルポも素晴らしいが、総括するエピローグは秀逸である。2014/04/25
ɐʞıɹɐɯnɯɹıʞ
0
野村進先生のルポルタージュを読んでいると、気づくといつも襟を正しながら夢中になって読み進めているじぶんが居る。彼の特に医療現場に対する視線は、微に入り細に入って観察・注視していながら同時に俯瞰で眺めている慧眼さを感じる。この本を書かれたのが20年前とは思えないほど現代に入り組んでいる問題を先取り、研究し、真摯に取り組み、読みてに問題提起をしている。彼のセンスと熱情にはたはた敬服するばかりである。2013/02/01