内容説明
文芸作品の内なる表現理念=「雅・俗」の交錯によって時代を区分したところに本書の不滅の独創がある。健康で溌溂とした「俗」を本性とする古代文芸、端正・繊細な「雅」を重んずる中世、また古代とは別種の新奇な「俗」を本質とする近代。加えて著者は、日本文学を「世界」の場に引き出し、比較文学の視点からも全体的理解に努める。長く盛名のみ高く入手困難だった「幻の名著」の待望の復刊。
目次
第1章 古代
第2章 中世第一期
第3章 中世第二期
第4章 中世第三期
第5章 近代
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yamahiko
20
古代から近代までをの文学の特徴を独自の視点で腑分けした、今なお褪せることのない良著。好き嫌いと紙一重のような気もしますが、良い悪いを、これだけ端的に説得力を持って談じている著作を知りません。昨秋、神保町の古本まつりで見つけた一冊でした。2018/01/28
ラウリスタ~
19
本文としては200ページほどしかない小さな本なのだけれども、とてもうまく日本文学の歴史をざっくりと語ってくれる。高校の古典の先生が「私、業平が大好きでね、おほほほ」って言っていてもあまり興味の湧かなかったものが、小西先生が説明するそれぞれの作品の同時代的意味によってスッと落ちてくる。「・・・には見るべきものはない」などとその道の専門家を怒らせることを恐れないざっくばらんで深い見識に裏打ちされた文学史は、盲目的に文学であれば何でも尊いという立場からかけ離れている。シナと、ついで西洋との比較(必然的な)。2016/06/16
うた
6
文藝として完成を志向する「雅」と完成により閉じた世界である「雅」をゆさぶる混沌である「俗」。そしてその中間に位置する「俳諧」。本書をなんと誉めたらいいものか。物語と小説の違いなど、むずかしいことをはっきりとした言葉でさばいていく様に興奮をおぼえます。2011/05/15
茶幸才斎
6
古代から近代にいたる各時代の文学的傾向について、小気味よく解説している。どのくらい小気味よいかと云うと、例えば、戦国期の武家諸氏には文藝の愛好者も幾らかいたが、「かれらは、いわゆる戦国争覇の裡で、いずれも悲劇的に没落してゆき、土豪信長や野人秀吉が勝ち残って、十七世紀に入る」(p.125)という具合に、日本文学史上、信長や秀吉は無価値であったことがさらっと書かれているくらい小気味よい。こんな味のある一文に出くわしただけでも価値ある一冊だった。深い造詣に裏打ちされた言葉には、昆布だしのようなうま味がにじむ。2010/02/20
うぴー
5
『文学史』と題されてはいるが、俳諧や能といった芸術史も紹介されている。小説のような文学と俳諧とは相互に影響しあっており、例えば、連歌の構成である発句・付合が、江戸時代には浮世草子の構成に取り入れられているとのことで、興味深かった。また、外国文化の影響も触れられており、六朝詩のような漢詩の普及により、和歌の評価基準が、既存の作品の表現を用いることにシフトしていった点も、歓心を引いた。2018/05/25