内容説明
歴史や民俗の中に登場する「翁」とは何か。この翁は人間界に何を告げようとしたのか。著者は、日本の神の多くは翁の姿でこの世に現われ、また神から翁への展開というモチーフが日本の宗教史を貫く主旋律であったと主張する。さらに「神」が老体の翁であるのに対して、「仏」はなぜ青年の姿で表現されるのかという対照性の命題を追究する。日本人と神や仏との関係に新たな一石を投じた異色の民俗論。
目次
1 翁と童子―その身体論的時空
2 古代における神と仏
3 神から翁へ
4 メシアとしての翁―折口信夫論の試み
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえ
4
最後の章に、「メシアとしての翁ー折口信夫論の試み」が収録されている。「折口が昭和初年の時点において「翁」の問題に寄せようとしていた関心のつよさと気迫は、並のものではなかった。…人は死んで他界におもいて死霊となる。異郷の死霊は時をへて祖霊となるであろう。祖霊はやがてカミへの道をたどるが、そのうち親近なカミや祖霊がわれわれの現世に来訪神としてあらわれるが、しばしば翁と媼の姿に具現化して登場する。かれらは祭りの庭や田野で、折口のいう感染所作をおこなって祝福と繁栄のことばをのべ、ふたたび異郷の地へと消えていく。」2024/03/12
プロムナード
3
異界との橋渡し役となる「翁」論ですが、著者のロマンティシズムが強く伝わるので、読みやすく面白い。翁が山や海とつながって登場するのは、古来よりそこが異界だったから。本来形のない神が、仏教に触発されてその姿を示すようになると、翁がその媒体となる。それはかつて天孫を導いた国つ神に連なる系譜である。等々。共同体の生産活動に参加できない子供と老人が神になるところは日本らしいなと思うし、ユングの「老賢者」みたいに、日本人の元型のひとつとしてみるとすごく興味深い。であればこそ、子供(童子)論についても読みたいところ。2013/12/28
mogihideyuki
1
(福祉職的メモ)神と人間、この世とその外部とを媒介する存在としての翁。高齢者にせよ子どもにせよ障害者にせよ、周縁的な存在は媒介者としての役割を担ってきたが、現代では居場所を狭められ、ケアされる受動的な存在となっている。「そうではない、ケアとは複雑で揺れ動く相互行為なのだ」と言ってみても、やはりマジョリティ(健全な大人)を中心とした考えからは出ていない。そうではなく、死の側から、神仏の目から、現生利益の外部から見つめたい。そのとき権利や平等といった近代(外部のない世界)の理念は目を曇らせるように思う。2017/02/15