出版社内容情報
【内容紹介】
「《われわれは幸福を発明した》末人たちはそう言って、まばたきする」末人すなわち現代人に向けて、毒ある予言を呈したニーチェの警句は、《退廃》を宿命として帯びたわれわれの心を深く揺り動かさずにはおかない。本書はニーチェの評伝でも解説でもない。平板な無思想状況と人間の卑小化を予見していたニーチェと著者との《対話》を通じて、人間の生き方を問う思索と行動への書である。高貴なる精神とは何か? いま問いなおす意味は大きい。
末人の時代――人間は昔より多く理解し、多く寛容になったかもしれないが、それだけに真剣に生きることへの無関心がひろがっている。すべての人がほどほどに生きて、適当に賢く、適当に怠け者である。それならば現代人に、成熟した中庸の徳が身にそなわっているのかというと、決してそうではない。互いに足を引張り合い、互いに他を出し抜こうとしてすきをみせない。「人に躓く者は愚者」であって、「歩き方にも気を配」らなければならないのだ。人間同士はそれほど警戒し合っているというのに、孤独な道をひとりで行くことは許されず、べたべた仲間うちで身をこすり合わせていなければ生きていけない。「温みが必要だからである。」彼らは群をなして存在し、ときに権威ある者を嘲笑し、すべての人が平等で、傑出した者などどこにもいないと宣伝したがっている。――本書より
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
37
タイトルが紛らわしいが、本書はあくまでも著者の人生観についてのエッセイだ。自説を述べ、その間に『ツァラトゥストラ』の引用がある。終章のみ『悲劇の誕生』が引用され、そちらの方がニーチェに引き付けている。文意はあくまでも著者の雑感で、ニーチェは著者の文章の注釈かのように選ばれている。端々に45年の時代を感じさせるが、当時でも十分に反時代的な論調だったろうと推測できる。しかし、反時代性の底に突き抜けている部分があり、そこにニーチェと著者の真意がある。両者ともその真意に気付く読者を待っていることは共通している。2023/05/22
Gotoran
22
ニーチェ研究・翻訳に詳しく、ニーチェ思想を既に自己の血肉となしている著者が、その思想に縦横無尽に切り込んで、その魅力を十分に引き出した本書。研究者としてではなく、現代を生きる人間として、その中でニーチェの言葉をともかく自己の生活上の体験と繋げた読込みに感嘆した。「友情」「孤独」「現代」「教育」「高貴さ」「学問」「言葉」にカテゴライズされ、夫々に関連したニーチェの短い章句が『ツァラトゥストラ』から引用されている。本書を読んで、他のニーチェ本と再び『ツァラトゥストラ』をも読んでみたくなった。2013/12/08
風太郎
6
哲学的な話が多く占めるのかと思っていましたが、ニーチェの著作、生き方、思想を追いながら、人の生き方を考えるための本のように思わされました。著者の方は厳格な方なのか読んでいて耳の痛い記述が見え、何かこれまで自分が真剣な人生を送ってこなかったかなのように感じさせられます。結構真剣に生きてきたつもりだったんですけどね。はぁ……。2019/03/03
ソラヲ
4
ニーチェ思想の概観ではなく、『ツァラトゥストラかく語りき』をベースに西尾幹二個人の思想が語られる本(専門的なニーチェ論に関しては中央公論社から出ている『ニーチェ』を参照とのこと)。アフォリズムという形式上避けられない宿命なのかもしれないが、ニーチェが生きた時代やその思想の背景を知ろうとせず、彼の言葉の都合の良いところだけ拾って勘違いしている若者への批判が突き刺さった。哲学を精神的発達の段階において乗り越えられるべき領域、いわゆる「成熟」の問題と取り違えてはならない。2017/01/15
茎沢
2
ギクッとしたところふたつ。①本人は丁寧に全文を味読しているつもりでも、結果的に、自分を正当化してくれる言葉、自分にのみ都合のいい言葉にばかり目が向いてしまう危険には、気がついていないのが普通だからである。②私は読書する怠け者を憎む。2020/02/09