講談社現代新書<br> 生きるということ

講談社現代新書
生きるということ

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  • サイズ 新書判/ページ数 207p/高さ 18cm
  • 商品コード 9784061156999
  • NDC分類 914.6

出版社内容情報

【内容紹介】
この混迷の時代にあって生きるとは、人を愛するとは、どんな意味をもつのだろうか。苦闘の過去をもち、人生の悲しみを見つめてきた著者が、故郷の母のこと、わが子のこと、心に残る出来事などを通して、生きてあることの意味を自ら問い、静かに語りかける――。貴重な体験と透徹した作家の眼に裏打ちされた深い書である。

岩の上に生えた木――越前岬で奇妙を木をみた。それは波にあらわれた岩石の上に、あぐらをかいた1本の木であった。遠くだから何の木だかわからなかったが、実がなるとみえて、渡り鳥がいっぱいおりていた。岩の上に生える木は、人間よりも美しい生きものである。鳥がウンチの中に入れてひり落したタネが岩にへばりつき、そのタネにまぶりついた海藻や、いろいろな小動物がその芽のために土となって死んだのである。その死を、芽は栄養にして、岩の裂け目にはえ、とうとう10年後にメロンの肌のように、その岩をまいた。石は樹にとって栄養であった。この岩石をとりのぞけば樹は死ぬだろう。樹は北海の果ての波かぶる岩の上で子孫に根をゆずって生きるのである。鳥が訪ねてきて、花や実をついばんでゆく姿は、生々輪廻の神秘を考えさせる。私の心は深くこの本に打たれた。――本書より

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