内容説明
日本の先住民族の末裔で、山姥や天狗のような姿をもつと考えられた「山人」。彼らは一体何者なのか―。柳田が記した膨大な「山人論」の成立・展開・消滅の過程がわかるよう、その著作や論文を編者独自に再構成。「山人論」の変容と柳田の学問や文学の核心に迫る。
目次
序 孤児の感傷―原初の山人論
第1章 「天狗」から先住民へ―山人論の成立
第2章 山人論の変奏と展開
第3章 山人と狼に育てられた子供―柳田・南方山人論争
第4章 アサヒグラフ版「山の人生」
第5章 隘勇線の彼方―越境する柳田国男
終章 「山」の消滅
著者等紹介
柳田国男[ヤナギタクニオ]
1875年、兵庫生まれ。1900年、東京帝国大学法科大学卒。農商務省に入り、法制局参事官、貴族院書記官長などを歴任。35年、民間伝承の会(のち日本民俗学会)を創始し、雑誌「民間伝承」を刊行、日本民俗学の独自の立場を確立。51年、文化勲章受章。62年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
34
柳田国男の山人に関する文章をまとめた一冊。南方熊楠との往復書簡や連載時の「山の人生」等様々な角度から、柳田の山人観に迫っている。こうやって見ていくと柳田国男の山人は、この世ならぬ世界、また天狗等の怪異と非常に密接な関連があるのがわかる。柳田民俗学が幻想文学と親和性が高いのも、この辺に原因があるのかもしれない。発生から終焉までまとめられているが、それでもやはり初めて読む人はこれだけで全貌を掴むのは難しいかもしれない。ただ様々な資料が並べられているので、そちらを読むだけでも十分に楽しむ事はできそう。2013/04/17
ぷてらん
4
柳田國男先生の「山神論」を、その成立から消滅までを追った一冊。人間と自然の関係が急激に変化していった明治の世で、深い山にひっそりと生きる民の存在を追った柳田先生。彼自身にも山へ逃げたいと思った経験があり、また彼も現実離れした感性の持ち主だったからこそ生まれた説だったのかなと思います。役人時代はさぞ変わり者と思われていたことでしょう…。あと熊楠先生の手紙の文量が半端なくて笑う。2018/09/11
pyonko
4
柳田國男の山人論関連の文献を集めた本。確かにパブリックドメインになったとしても、本書のように一つのテーマに沿ってまとめてあると初学者には非常にありがたいと感じた。各所の地名に山岳民族としての日本人の名残が見られるのは興味深い。2015/02/08
Schuhschnabel
3
『山の人生』を読んだので、ついでに積読消化のつもりで読む。編者の意図をうまくつかめているかわからないが、若い頃の作品は純粋に文学作品で、一方壮年の頃の作品は学術に寄与することを志向しているような気がした。南方熊楠との往復書簡は読んでいて面白い。編者は、父母を失った悲しみが柳田を山人論というロマン主義的傾向に向かわせたと見ており、それには自分も基本的には同意する。『山の人生』以降、関心が常民もしくは海に向かっているところを見ると、山人論が柳田の悲しみを慰める支えとしての役割を終えたと見ることもできるだろう。2021/03/06
perLod(ピリオド)🇷🇺🇨🇳🇮🇷🇿🇦🇵🇸🇾🇪🇸🇾🇱🇧🇨🇺
2
・「山人≒鬼≒大和民俗以前の先住民」という式が成り立つかどうか。そこまで簡単ではないだろうが、それを支持する資料はある。 ・同じ人間を非人間扱いすることの問題点、要するに差別について考えざるを得ない内容だ。同胞に対する差別というのはする側にも良心の呵責があるらしいから、人外と決め付けることでそれを緩和しようというご立派な先人の知恵…そこに差別が潜んでいることに無自覚なのは問題だ。 ・山人の目撃談が乗っているが、これを批判的に取捨選択することはなかなかに難しそうだ。→続く2020/10/29