内容説明
1945年、夏。特攻要員の宣言をされた僕が配属されたのは、「伏龍隊」。機雷を持って海に潜り、敵上陸艇を爆破して自らも海の藻屑となる任務だ。来るべき「死」へ向かって訓練を重ねる日々。そんな中でも日常は続いてゆく。友情、上官への反目、海のきらめき、カレーの味…だが、ある日の訓練中、僕の前で友人が死んだ。そして、戦況は悪化の一途を辿り…。比類ないみずみずしさで描かれる、新時代の戦争文学。
著者等紹介
熊谷達也[クマガイタツヤ]
1958年宮城県生まれ。東京電機大学理工学部卒業。97年「ウエンカムイの爪」で小説すばる新人賞を受賞。2000年『漂泊の牙』で新田次郎文学賞、04年『邂逅の森』で山本周五郎賞、直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サンダーバード@読メ野鳥の会・怪鳥
109
「神風」「回天」、人の命を犠牲にすることを前提とした特攻隊。そこに「伏龍」という存在を初めて知った。大戦末期、既に空を飛ぶすべもなく伏龍隊として選抜された予科練の若者達。群青の海に沈み上陸する敵船艇と刺し違えるのが彼らの任務。だが、欠陥だらけの潜水具のため、実戦以前に訓練中に300人を超える犠牲者が出たという。大本営はこんな「兵器」で本当に「勝てる」と思っていたのだろうか?「祖国を守る」ために志願したはずが、それ以前に犬死した多くの若者達。悲しみよりもむしろ怒りすら覚える話であった。★★★★2018/09/20
相田うえお
73
★★★★☆ 登録忘れ。いつもの様に皆さんのレビューで思い出しました。ありがとうございます。しかし、この小説に書かれていることをそのまま考えてみると、あり得ない!無茶苦茶だ!
s-kozy
62
読友さんの紹介で手に取る。17歳の少年が主人公。1945年の夏、特攻要員として僕が配属されたのは「伏龍隊」。潜水服を着て海に潜って待ち伏せをして、米軍の上陸艇の艦底に機雷をぶち当て、自らも海の藻屑となろうという任務を遂行しなければならない。訓練中にも死を招くことのある過酷で杜撰な作戦、それでも食べて、寝て、出しての日常を積み重ねる内に「死」の覚悟を決めていく。「腹が膨れれば、“あれ"だってしてみたい」。「僕」の一人称の視点から語られていく瑞々しい青春小説、新しい戦争文学と言えるのではないだろうか。2014/09/25
レアル
58
海軍伏龍特攻隊の話。実戦に投入される事がなかっためか、予科練時代の物語となっている。17歳の主人公。戦争への思いや、己の使命を受け止めて日々鍛錬に励む姿が描かれている。しかし著者の戦争色の濃い物語にしたくなかった思いがあったのか、そんな中でも日々快適に楽しく生きようとする若者たちを描かれるところがこの物語の読み処やもしれないし、そんな姿を読んでいて儚く痛々しくそして美しい。この著者はマタギも良かったがこちらの物語も良い話だった。2017/07/07
ばりぼー
54
憧れの零戦に乗ることを夢見て海軍航空隊に入隊しながら、特攻要員として「僕」が配属されたのは、爆装モーターボートの「震洋」でも、人間魚雷「回天」でもなく、「水際特攻伏龍隊」。潜水服を着て海底に潜り、竹竿の先に付けた棒機雷で敵の上陸舟艇を突いて爆破するという、「うへっ、かっこ悪い」と落胆してしまうお粗末なもの。語り手である僕の言葉遣いが現代調で軽く、今の価値観で当時の若者の心中を語るのには違和感を拭えませんが、訓練だけで多くの犠牲者を出した愚策に焦点を当て、死ぬことの大義を問う青春文学に仕上げたことに拍手。2016/08/15