内容説明
新宮、古座、吉野―。神話と伝説、そして敗者の地、故郷・紀州。その自然の核を探り当てたい。生の人生を聞きたい。地霊と言葉を交わし、美しさのおおもとを見たい。漁業組合で、製材所で、食肉センターで、この土地に生まれ、生活する人々の声を求め、中上は歩き廻り、立ちどまり、また歩く。「差別」という物の怪は、まだこの地をさすらっているのか。鋭い視線で半島をえぐる旅を記録した、ルポルタージュの歴史的快作。
目次
序章
新宮
天満
古座
紀伊大島
和深
日置
朝来
皆ノ川
本宮
尾呂志
有馬
尾鷲
紀伊長島
松阪
伊勢
古座川
十津川
吉野
田辺
御坊
和歌山
高野
天王寺
終章・闇の国家
著者等紹介
中上健次[ナカガミケンジ]
1946年和歌山県新宮市生まれ。作家・批評家・詩人。『灰色のコカコーラ』でデビュー。73年、『十九歳の地図』が第69回芥川賞候補となる。76年『岬』で第74回芥川賞を受賞。ウィリアム・フォークナーに影響を受け、土俗的な手法で紀州熊野を舞台に「紀州サーガ」とよばれる小説群を執筆。92年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みっちゃんondrums
30
「差別」を知らないで屈託なく生きるほうがよいのか、「差別」を知った上で意識するほうがよいのか、はたまた「差別」を知った上で知らない振りをするのがよいか……もう知ってしまったけれど。する側もされる側も、何故そんなに拘るのか。中上氏の小説は読み物として面白いと思ったし、このルポも傍観者として興味深く読んだ。それでよいのか、問うてばかりの感想になってしまうな。2018/06/21
こうすけ
23
中上健次が故郷の紀伊半島をめぐり、部落差別を真っ向から取材したルポルタージュ。差別とはなにか?という大テーマを掲げて、集落の人たちを訪ね歩く。といっても、そこは小説家によるルポ。紀は記であり、木、気、鬼であるのだ、という視点のもと、差別と物語の切り離せない関係性を解き明かす。際どいテーマの連載ものだったため、ある集落の人たちから「事実と違う」と呼び出しを食らい、糾弾された中上。しかし「言葉を持つわたしは、書き言葉を持たぬ者の批判にさらされる義務がある」と、甘んじて矢面に立つ。この覚悟がかっこいい。2022/09/23
魅乃乎minoco19860125
14
#紀州 #木の国根の国物語 #中上健次 #読了 中上健次さんの名前は以前から知っていて、9月に東京の神保町の古書店で見つけ、そういった問題を客観的にとらえた文章に興味があったので購読しました。正直なかなか文章難しいところがありましたが、なかなか深い日本人の心理的な本質を鋭くとらえた、かつやはり客観的で冷静な目で著者がそういった問題を見据えているんだな、と思い、興味深かったです。中上健次さんの著書はこれが初めてなので、ぜひ他の著書も読んでみたい。とても勉強になりました。2023/11/09
zumi
14
紀州、半島を巡る旅。生と性と聖、その裏の死と賤なるものを巡る旅に他ならない。紀州を知りたい。霊異の世界を知りたい。自然と土地を知りたい。自然と半自然が溶け合っているこの土地で、言葉の衝撃に出会うこと。夏芙蓉の季節に、一層輝くこの土地に関して、おそらく私は何も言えないだろう。2014/07/15
ハチアカデミー
13
A 物語を孕んだトポス紀州をめぐるルポルタージュ。差別を産む共同体の構造と、被差別者が作り上げる出鱈目ともとれる神話の数々が、「紀州サーガ」を産んだことがよく分かる。それぞれは短いが、屠場を訪れる「松坂」が特に印象に残った。また、ルポの途中に挟まれる自然描写や自然への眼差しも異様である。「草や樹木や岩の混成である風景を見て、事実の連なりである風景の奥にあるものに過剰に反応するのを知る。(略)そこにあるのは、事物の氾濫、アナーキーである」。自然が物語を産むのはそれが理解しきれない他者であるからであろう。2013/03/04