内容説明
吉田くんとのデートで買ったチョコレートバーの味、熱帯雨林にすむ緑の猫への憧れ、年上の女の細くて冷たい指の感触…。10人の女子高校生がおりなす、残酷でせつない、とても可憐な6つの物語。少女と大人のあわいで揺れる17歳の孤独と幸福を鮮やかに描き出した短篇小説集。
著者等紹介
江國香織[エクニカオリ]
1964年東京生まれ。87年『草之丞の話』で、はないちもんめ小さな童話賞大賞を受賞。以降、小説、童話、詩、エッセイ、翻訳など、幅広い分野で活躍。92年『きらきらひかる』で第2回紫式部文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で第15回山本周五郎賞、04年『号泣する準備はできていた』で第130回直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
429
6つの短篇を収録。「小説トリッパー」への連載(+最後の2篇は書き下ろし)が1996~'97年。20数年前の女子高校生たちの"リアル"が描かれていたのだろう。江國香織は、当時32,3歳。既に年代による断絶はあっただろうから、彼女の想像力によって補われていると見るべきか。それを今読む私からすれば、現代のリアルはわからないものの、案外ここに描かれたそれとの隔たりは小さいのではないかと思うのである。ことに、彼女たちの基盤が同級生たちとの危うい紐帯にあることを思えば。篇中では「緑の猫」がそれを象徴するかのようだ。2020/01/02
さてさて
188
何が起こるでもない日常は取るに足らない時間とも言え、取り立てて記憶に残る、もしくはわざわざ残すべきものでもないのかもしれません。でも、誰にとってもそういった時間の積み重ね、繰り返しの先に今があります。その時間、その瞬間には、その時々に感じ、考えて、自分の歩く道を選び、行動してきたのも間違いない事実です。記憶に残らない時間にもひたむきに生きる自分がいた、今の自分を作ってきた時間があった。全てが自分にとっては特別な時間。時代を映した表現の数々とともに、江國さんの描く独特な雰囲気感を楽しめた、そんな作品でした。2021/08/17
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
134
いつかはこんな境界に立っていた遠い記憶。何時だって軽々と向こう側に行ける身軽さと靡く髪、おさえて翻るスカート。岬は風がつめたいけれどたとえ雪が降ったって膝は直に風を受ける必要があった。 もうとうに記憶からこぼれおちていても、ひりつくあの剥き出しの感受性風に打たれる度肌で思い出してる。アオハルなんて嫌いだった。早く大人になりたかった。でもおなじくらい子どものままでいたかったいれなかった。戻りたくなんてないけれどふと思う。あの頃境界を飛び越えた世界で生きた私も見たいと。2020/12/13
優希
105
残酷で切なくて、可憐な輝きが美しい。子供でもなく大人でもない17歳の孤独と幸福が胸をしめつけてきます。色々な家庭環境の女子高生たちの揺れる心は儚くて、翳りのある壊れそうな思春期ならではだと思います。大人になったときに記憶からこぼれおちているかもしれない季節だからこそ、一瞬のきらめきを放っているような気がしました。かつて存在した自分はもういない、そう思うと何だかぎゅーっとなりました。優しく心に沁み入る感じが良かったです。江國さんだなぁと思える雰囲気が好きです。2016/03/17
nico🐬波待ち中
101
私立の女子校を舞台にした連作短編集。当然ながら性格や家庭環境は異なるし、そのことは彼女たち自身が痛いほど分かっている。クラスメイトとしての共存の仕方はその辺の大人よりもオトナで、どこか達観さえしている。そして親のこともいつも冷静に見ていて、顔色をうかがったり気を遣うこともしばしば。女子高生として過ごした短い時代は、大人になるにつれいつか記憶からこぼれおちるのだろう。けれど彼女たちがその時感じたやるせない気持ちは、いつか思い出に変わりあの頃を懐かしく思い返せるといい…というのが、元女子高生としての感想です。2021/11/21