出版社内容情報
現代日本社会は幼さが氾濫。では老いと成熟はどうなる?太宰治らの作品を通じ、賢く強い語りと幼く弱い語りの差異に注目する。
内容説明
老人も子どもも持っている「幼さ」の底力!権力の語りに抗う「弱さの声」の可能性。太宰治、村上春樹から江藤淳、古井由吉まで、新しい視座と繊細な手触りのある文芸評論エッセイ。
目次
序章 支配しようとしない声とは?
第1章 幼さの文化
第2章 太宰治と幼さの技法
第3章 村上春樹とカウンセリング
第4章 「かわいい」の美学
第5章 「かわいい」の境界線
第6章 幼さと逸脱
第7章 幼さの詩学
第8章 幼さと成熟―大塚英志と江藤淳
第9章 老い語りの可能性―小島信夫の場合
第10章 古井由吉の成熟法
終章 老いの中の幼さ
著者等紹介
阿部公彦[アベマサヒコ]
1966年生まれ。東京大学文学部卒。ケンブリッジ大学で博士号取得。現在、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部准教授。英米文学研究と文学一般の評論を行う。著書に『文学を“凝視する”』(岩波書店、サントリー学芸賞受賞)など。小説「荒れ野に行く」で1998年に早稲田文学新人賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ・ラメーテ@家捨亭半為飯
36
元々は賢者・強者が語る言葉を無知な弱者が聞くということ。大人が子供に言い聞かせる等。現代人は弱者であることを強いられている。引用>>/たとえば「消費」という概念には、物を買い消費する人を、知識に乏しい無知な人と見立てる視線が内在する。教え、警告するというスタンスの広告が巷に氾濫するのもそのためだ。/ 弱者だからこそ語ることの出来る言葉がある。幼さの力。弱さの声。太宰治、村上春樹、谷川俊太郎、萩原朔太郎、武田百合子、多和田葉子、ルイス・キャロル等。2016/03/28
田中峰和
5
力の足りなさ、非力さが現代人の心をつかむというのが主張。元来、語るとは能力のある選ばれた者に許された行為であった。ところが著者は語る力があるのは弱い人や幼い人かもしれないと反論する。幼さの隆盛を語るとき、AKBやアニメ、コスプレなどポップカルチャーを例にあげることが多いがここでは文学を中心に展開される。「人間失格」で太宰は主人公葉蔵の弱さを女に振り回される存在として表現する。もう一つの非力さの象徴に老いがある。近年文学賞に応募する作品として介護小説が多いという指摘。なるほど芥川賞作家羽田圭介もそうだった。2016/01/03
Haruka Fukuhara
4
キーフレーズが上手いと思った。表題しかり、村上春樹とカウンセリングとか太宰治と幼さの技法とか。あと江藤淳には割と関心があるので予想外に言及があったのはよかった。ただ全体として何を言いたいのかよくわからなかったか、言いたいことはわかったけど何でそんなことを言いたいのかわからなかったか共感しなかったか、よくわからないけど全体としてそう面白くなかった。2017/03/26
風見草
3
四方田犬彦の『「かわいい」論 』ような内容を期待したが、内容は文学評論である。文学の素養のない自分には正直何を言っているのか理解困難でこじつけにしか見えず、説得力が感じられなかった。本書の評論のレベルのほどは分からないが、文学の嫌いな自分には文芸評論はちょっと肌に合わないかも。2015/12/05
のせなーだ
2
幼さ、弱さ、かわいいは自然だと思う。チャーミングは心地よい。幼さから成長続け成熟できる人はどれほどいるのかしら。本人の自覚、環境、人間関係、教育、修行など凡人には道はな~い。老いて死が先に来るだけ。ナイーブすぎることを恥じる早熟な国民性もあれば、幼いまま無自覚?図太い開き直りが何よりまかり通る国民性もある。後者は何より気分が悪くなる。幼児だろうが小さな恐ろしい怪物の幼さも爺婆の無自覚な稚すぎる逆切れも、生存期間の中を占める幼さの比重の大きさの恐怖。大人のいない幼児と老人だけの世界。ホラーですが現実だな。2022/10/24