内容説明
人は自然災害によって死ぬのではなく、建物が倒壊することによって命を落とす。しかし災害が起こった場に、建築家の存在感は薄い―そのような問題意識により、世界中の被災地で避難民を支援してきた坂茂。二〇一四年にプリツカー賞の栄誉に浴した独創性と人道的取り組みへの意志は、どのように実践されてきたのか。地震と向き合わなければならない日本社会において、最も注目すべき建築家の思いと行動を伝える、最新インタビューを「あとがき」に加える。
目次
1 阪神・淡路大震災
2 紙は進化した木だ
3 留学
4 出会い
5 国連で生かす紙の建築
6 建築家の社会貢献
著者等紹介
坂茂[バンシゲル]
1957年、東京生まれ。建築家。1984年、クーパー・ユニオン建築学部(ニューヨーク)卒業。1985年、坂茂建築設計設立。1995年、国連難民高等弁務官事務所コンサルタントを務め、NGO VAN(ボランタリー建築家機構)設立。芸術選奨文部科学大臣賞、朝日賞など国内各賞のほか、2014年にプリツカー建築賞受賞、同年フランス芸術文化勲章(コマンドゥール)受章。世界中の被災地において災害支援プロジェクトを展開する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アキ
81
なんという行動力。やはり圧巻は阪神・淡路大震災での「紙の教会」をボランティアと自ら建築資金を集め建てたこと。マスコミの横やりもボランティア同志の争いも行政の対応も何のその。この奇跡的な大作戦はエコロジーが叫ばれる以前のこと。紙管を日本での構造材として第三十八条認定をも得る執念。その後の紙のドーム、紙のギャラリー、UNHCRでの紙の難民シェルターも紙の素材は世界に羽ばたく。あとがきで、東日本大震災の女川駅舎も椅子など家具もすべてがこの素材。「社会のために何ができるか」そのコンセプトに忠実な行動力がすさまじい2020/05/25
おせきはん
23
坂茂先生のことは報道等で見聞きして存じ上げていましたが、本は初めて読みました。建築家として社会のために行動する姿勢と行動力に改めて感銘を受けました。環境にやさしく生産も容易な紙管活用の可能性も理解できました。まさに「紙は進化した木」ですね。一方で、前例にとらわれて緊急時でも柔軟な対応をとるのが難しい日本の状況に、もどかしさも感じました。2022/01/12
ビイーン
21
建材の紙管は一般的には梁貫通スリーブや地中に埋設する柱の型枠替わりに使用する。紙管を外から見える柱や梁、フレームに使用する発想が本当にすごいね。2018/10/06
nbhd
13
ヒューマニズムの建築+プラグマティズムの建築=紙の建築、といった印象。乃木坂のTOTOギャラリーで開催中の建築家・坂茂さんのエキシビジョン(幾何学感が最高!)を見て、手にとる。文章は平坦で読みやすいけど、そのぶん物足りなさも感じた。阪神大震災の仮設住宅地につくられた「紙の教会」や「紙の家」など、紙の使い手である坂さん。「主張する」「行動する」とかは高校卒業後にアメリカに渡ったことが、大きく影響しているのだろうと思う。文章のひねくれてないかんじ=メッセージが伝わることが第一、ってところもプラグマティックだ。2017/06/15
bb
13
建築家の社会貢献を実践する坂茂本人が、何を考えてきたのか・考えているのかわかる本。アイデア1つで飛び込み営業みたいなことをしたり、現地のゼネコンとハードな交渉をしたり、彼の行動力とタフネスはなかなか真似できない。個人的には、作ったモノの意匠性についても本人の弁をもっと聞きたかった。難民キャンプのテントや間仕切りであっても、どこか格好良くて、それが単なる被災地支援を超えた評価につながっているように思える。機能を研ぎ澄ました結果としてのデザインなのかな?2016/12/26