内容説明
「いい子」を育てる教育に熱心な社会では、子どもが創造的であろうとすることさえ悪とされることがある。しかし一方では、理屈ぬきに絶対に許されない悪もある。生きることと、悪の関係を考えるのは容易なことではない。「いじめ」「盗み」「暴力」「うそ」「大人の悪」など、人間であることと深く関わる「悪」を斬新な視点から問い直す。
目次
1 悪と創造
2 悪とは何か
3 盗み
4 暴力と攻撃性
5 うそ・秘密・性
6 いじめ
7 子どもをとりまく悪
著者等紹介
河合隼雄[カワイハヤオ]
1928年兵庫県生まれ。京都大学理学部卒業。1962年よりユング研究所に留学、ユング派分析家の資格取得。京都大学教授、国際日本文化研究センター所長、文化庁長官を歴任。2007年7月逝去
河合俊雄[カワイトシオ]
1957年奈良県生まれ。京都大学教育学研究科博士課程修了。ユング派分析家資格取得。京都大学こころの未来研究センター教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
55
シオランの言葉「善良なるものは創造しない、それは想像力を欠いている」を例に、子供が学校で従わない場合それは悪と見なされるとする。教師や親が悪を排除することで「よい子」と作ろうと焦ると結局は大きい悪を招き寄せることになる。残酷な話をしたからといって子供は残酷にはならないが、しなければ子供自ら残酷な話を作り出す。大人は先回りすると子供の非行を生む。しかし、子供の悪に対しては厳しく叱責し、その後に関係の回復を図ろうと大人がすることが子供の将来に大きい意味を持つ。子育て世代に何らかの指南を与えてくれるだろう。2014/05/26
南北
30
不登校・盗み・いじめ・嘘・孤独・反抗など一般に「悪い子」とされる事例にどう対処していくかについて著者が以前行った著名人へのインタビューや児童文学での例を挙げて解決策の糸口を探していく。「悪」には子供の創造性から生まれてくるものもあるが、理屈抜きに許されないものもあるため、単純に論じることはできない。まずは子どもの主張を受けとめるところから始める必要がありそうだ。この本で答が見つかるとは限らないが、ヒントを見つけ出すことはできそうな気がする。 2021/12/07
roughfractus02
9
破壊は創造の影であり悪は両者の面を持つと著者はいう。子供が自らの創造性を活かす思春期では従来の関係の破壊が伴う。本書は悪をプロメテウスが火を盗む神話に見、火の創造性を人間に与えると神と人間の関係が壊れるとする。発達心理的には、身体の排出する糞便を「汚い」と判断する時期に「汚い」が悪に転化して自己の中に悪があると知り、成長に伴って意識と無意識の葛藤が増すとされる。意識と無意識を分離した近代を批判する著者は、近代教育で意識の側に立ったつもりの大人が、子どもだけでなく自分の悪に対しても試行錯誤する必要を訴える。2022/12/11
ヤドンの井戸
8
盗みや暴力、うそなど、一般的に「悪」とされる子供の行為について、その本質を欧米との比較も交えつつ考察している1冊。現代であればここに述べられている「悪」の事例に加え、スマホやSNSも入るのではないだろうか。 【TODO】 ・実際に「悪」を為した子どもに対しては、毅然と叱らなければいけないが、その後アフターフォローをする際には、その行為をした本当の目的について冷静に考える余裕は持ちたい。2020/10/28
マル
7
子どもは大人が一般的に“悪”としているものを通して成長していくと河合さんは仰っています。大人は子どもの悪事の表面だけを捉えて怒るのではなく、その行為の奥で蠢いているものにもっと注意を向けなければいけないとも書いています。確かに自分の子ども時代を振り返っても、ただ頭ごなしに怒られた時は逆に反発心が強くなるだけで、何も分かってないくせにと思うことが多かったと記憶しています。河合隼雄さんは多くの不登校児や非行少年たちのカウンセリングを行ってきた経験を出来るだけ分かりやすく語ってくれています。2015/08/16