内容説明
沖縄返還交渉で、アメリカが支払うはずの四百万ドルを日本が肩代わりするとした裏取引―。時の内閣の命取りともなる「密約」の存在は国会でも大問題となるが、やがて、その証拠をつかんだ新聞記者と、それをもたらした外務省女性事務官との男女問題へと、巧妙に焦点がずらされていく。政府は何を隠蔽し、国民は何を追究しきれなかったのか。現在に続く沖縄問題の原点の記録。
目次
発端
封印された会話
不発弾
自白→起訴
出廷
雷雨の法廷
相被告人
検察の論理
最終弁論
ひとつの幕切れ
告白1
告白2
新たな出発
著者等紹介
澤地久枝[サワチヒサエ]
1930年東京生まれ。両親と共に「満州」に渡り、敗戦で引き揚げる。早稲田大学第二文学部卒業。中央公論社勤務を経て、ノンフィクション作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
92
山崎豊子の『運命の人』が売れていたが、本書は例の事件を丹念に追った作品。マスコミはどうして、こうも踊らされるのか、あるいはわざと踊っているのか、と考えさせる作品。沖縄返還というエポックメーキングな事実の裏で、いったい何があったのか、よくわかる。2010/05/08
kochi
16
沖縄返還交渉では、個人の請求権は放棄していないとして、収容土地の原状回復費用を米軍に請求していたのだが、負担増を拒否する米軍に対して、日本政府は400万ドルを肩代わりし、世論対策のため内密に処理する。国会で密約の存在を追求されているとき、新聞記者と外務省女性事務官が機密漏洩の罪で逮捕され、本書はその事件についてのルポ。事務官の弁護士の言葉「真相を知っておるが墓まで持ってゆく」が、象徴するように全体像は謎のままで、本書の対象ではないが、同時期に米国での「ペンタゴン・ペーパーズ」事件との対比も興味深い思い。2022/10/20
とみやん📖
8
憲法の授業中で、西山記者の話を興奮混じりで講師から聞いた日々が思い出された。 知る権利と公務員としての守秘義務との相克が争われたわけだが、そもそも記者は公務員ではなく、そそのかしが争点とは。権力者が争点をすり替え、それを司法の頂点が追認し、そして、主権者たる国民がそそのかされた。ただ、こうして、後年になって冷静に事件を見つめる人間の存在は、この著作の成果ではなかろうか。わが国の民主主義の発展にまみえた時、佐藤首相よりも、政府の密約をリークさせた西山氏の方が歴史への貢献が高い人物と評価されるのかもしれない。2019/02/04
JunTHR
7
日米間の密約という国民への裏切りでしかない政府の行為へのジャーナリズムによる追及が、男女の下半身問題にすり替えられたことまでを含めて、民主主義とジャーナリズム上の「事件」だが、その記録としてと同時に、澤地久枝の力がこもっているのは情報漏洩をした元外務事務官の蓮見喜久子の振る舞いについてで、「とにかく世間から忘れられて欲しい」と言いながら度々週刊誌に出る不審や、元交際相手によるキナ臭い情報提供など、驚きのある展開があるからこそ、ノンフィクションの傑作として語り継がれているのだと、大いに納得。面白かったー。2016/08/12
あんころもち
7
熱い、本である。沖縄返還を巡る「密約」の存在に憤り、取材を進めていく。公判の様子はもちろん、当時の報道、雑誌特集などを丹念に拾い集めている。密約問題がいつの間にか「一組の男女の情事」という下卑た事件に収斂していく過程、その中で密約問題の真相究明を求める声がかき消されていく様子、その趨勢に抵抗できない無力感をありありと描く。 そして熱さの一方で、驚くほどの冷静さを兼ね備えている。国家権力批判は通底するものの、事務官や記者に無闇にべったり、もしくは批判一辺倒に陥るのでなく、分析・記述しているのである。単なる問2014/10/13