内容説明
万世一系の天皇から象徴天皇へ、戦前から戦後へと天皇像は著しく変容した。敗戦から現在まで、皇室と国民の距離も大きく変化した。現天皇即位後の二〇年間に、象徴としての天皇制のしなやかな適合力が国民の支持を獲得してきた現実をどう見るか。国民の皇室に対するまなざしはどう推移するか。戦後天皇制を考察した労作。大佛次郎論壇賞受賞。
目次
第1章 「紀元前六六〇年」から一九四五年までの天皇
第2章 立憲的象徴君主制
第3章 いまも続く内奏―戦後政治と昭和天皇
第4章 天皇の戦争責任と謝罪
第5章 天皇制文化の復活と民族派の運動
第6章 「大衆天皇制」
著者等紹介
ルオフ,ケネス[ルオフ,ケネス][Ruoff,Kenneth]
1966年米国ニューヨーク州イサカ市生まれ。ハーバード大学卒業後、コロンビア大学で博士号を取得。94~96年、北海道大学法学部助手・講師を務める。英語圏における現代天皇制研究の第一人者として知られ、紀元二千六百年についての新著が近く刊行される。現在、米国ポートランド州立大学助教授、日本研究センター所長。『国民の天皇―戦後日本の民主主義と天皇制』で、大佛次郎論壇賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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風に吹かれて
19
2001年刊。03年に翻訳版刊。09年、本文庫のためのエピローグ追記。 政治家、憲法学者のみならず新聞雑誌から国民の声をひろうなど幅広く天皇をめぐる議論を紹介している。「天皇」の理解に欠かせない戦前の様々な議論も要約している。 人は時代や受けた教育に制約されて生きて行くわけだが、そのなかでも何らかの責任を負うのが公人だと思う。戦前戦中戦後を生きた昭和天皇にはどうしても戦争の影を見てしまっていたが、平成天皇になったとき、明治憲法の「万世一系」から、ようやく現憲法の「象徴」になったように思えた。 →2023/03/15
katoyann
13
戦後日本における天皇の社会的位置づけを様々な資料をもとに社会史的に分析している。雑駁に内容を述べると、➀象徴天皇制が成立して以降の天皇の政治関与とその是非についての論争、②元号制(紀元節)の復活に取り組んだ市民運動への賛否から見える天皇に対する意識、について触れられている。そして、最も大きな内容は、戦前も戦後も天皇は時の政治権力にただ利用される存在ではなく、むしろ重要な局面では積極的な役割を担ってきたという事実である。 ここから一つは、昭和天皇が戦争責任から免れえないという理路が導き出される。(続く)2021/03/30
mittsko
5
天皇制の歴史的研究、とくに敗戦後(主に95年まで)に焦点をあてており まさにボク自身の成り立ちを見せつけられるようだ 知らないこと、ぼんやりとしか分かってなかったことだらけで どこを読んでも(大げさでなく全頁が)勉強になる 日本近現代史としてこれを評価することは専門外のボクにはできないが(巻末の原武史「解説」は、本書を「最良の案内書」で「独創性を持ち合わせて」もいる、と評価する) すでにこのイデオロギー空間に巻き込まれきっている身としては 外部(日本国民国家の外)からの冷静な視点がなによりありがたい 良書2015/05/26
かに
4
敗戦から現在までの天皇について。敗戦により変化した天皇のあり方について、右派や左派の考えや多数の国民の考え、イメージなどから天皇のあり方を見ていく。建国記念日の制定や元号などの存続など戦後にそれらが話し合われてきた事実を知って面白かった。また、昭和天皇は戦後も政治への関与を希望してたことなど、知らなかったことを知れて非常に面白く、興味深かった。憲法に反しない天皇の活動や親しみやすい国民に近い天皇への変化などの経緯など非常に面白い。 2023/06/13
ポン
2
天皇制の廃止は国家主義の抑圧につながらない。なぜなら、保守派はまた別の象徴を作りだすに違いないからだ、という立場から戦後の大衆天皇制への移行に希望を見出し、天皇制の持続を容認する議論。そんな立場をとれなかった結果、今の日本の保守派の台頭があるのだ。2014/01/28