出版社内容情報
明治維新後の近代国家確立に向けて,権力の視覚化のために天皇は巡幸し,御真影がつくられた.理想の近代国家元首の肖像とするにはどんな方法がとられたのか.近代史研究に衝撃を与えた画期的論考.敗戦後の御真影の最後について増補.
内容説明
明治維新後の近代国家体制確立に向けて、天皇をどう見せるかという「権力の視覚化」は大きな問題だった。天皇は全国を巡幸することで民衆にとって見えるものとなり、さらに御真影がつくられる。理想の近代国家君主の肖像をつくりあげるためにどのような方法がとられたのか。近代日本史研究に大きな衝撃を与えた画期的著作。
目次
第1章 見えない天皇から見える天皇へ
第2章 和魂洋才と明治維新
第3章 巡幸の時代
第4章 「御真影」の誕生
第5章 理想の明治天皇像
第6章 「御真影」の生みだす政治空間
著者等紹介
多木浩二[タキコウジ]
1928年神戸市生まれ。東京大学文学部美学美術史学科卒業。東京造形大学教授、千葉大学教授を歴任
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感想・レビュー
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ヒナコ
9
明治維新以降、「御真影」として人々を統治する機能を担った天皇の表象に関する研究書。 明治維新以前、姿の見えない存在だった天皇は、明治政府にとって変革すべきものだった。というのも、近代的な君主制に移行しようとしていた新政府には、身体を持ち主権者として振る舞う「王」が必要になったからだ。 統治機能を担う天皇の表象は、まず、天皇が各地を謁見する「巡幸」として、姿を現した。それは、新たな主権者の存在を民衆に伝播させ、また、その主権者が民衆へ視線を送り統治を基礎づけるために行われた。→2022/06/25
鬼山とんぼ
2
維新当時に新たな統治者である天皇に対しごく曖昧なイメージしかもっていなかった庶民に対し、明治政府によって統治のための便法として肖像画や写真が利用され、やがて御真影として神格化され、昭和期には軍部に悪用され戦争に突き進む国民感情の醸成に利用されるという顛末を大変わかりやすく述べている。この本の価値はそこまで。この本と対を成す若桑みどり著「皇后の肖像」は並行的歴史を物語るが、天皇家における、子を産むための「妾」という存在の微妙さが女系天皇論議などに深く関わっているのを示唆しており、その現代史的価値は高い。2021/04/12
そーすけ
2
238*「御真影(御写真)」をめぐる歴史の本かと思ったら、そうでもなかった。「教育勅語」のように、「御真影」がどのような役割を果たしたかの歴史を知りたかったので、自分の関心とは、ちょっと違った。それでも、様々に参考にはなったが。天皇の「身体」とか「視覚化」の話がわりと出てくる。明治21年の「肖像」によって、明治天皇は永遠の存在となったのだ。2018/10/06
hiroshi0083
1
まずは明治維新から、いわゆる「御真影」が作られるまでの歴史を、政治的、文化的、そして写真論的立場を交えつつ丁寧に追う。そして、様々な技術や理論を駆使して誕生した御真影が、今度はどのように利用されたかが描かれる。戦前教育への興味から読んだ一冊。その具体的内容は述べられていなかったが、丹念に読むことで、いかにして戦前教育が行われていったかの、歴史的メカニズムは充分に理解出来た。歴史本としても、また写真論としても十二分に楽しめる好著。お薦め! 2014/01/03
kid_luckystrike
1
『明治維新後、まず、廃藩置県がまだおこなわれていない明治二年の正月に関所は廃止され、名目的には国土は一体化すいた空間として開かれるにいたったが、人びとの心的な地理空間がそう急に変わるわけはない。人びとの世界はほとんど自分の土地に限定されていた。かつてはこのような心情的、経験的空間が日本列島を細かく分割していた。十年以上に及ぶ巡幸の政策は、日本の国土全体を客体としての地理的空間に統一的に把握する認識をひそかにもたらしていたのである。』2009/04/10