内容説明
日本統治下の済州島で育った著者(一九二九~)は、天皇を崇拝する典型的な皇国少年だった。一九四五年の「解放」を機に朝鮮人として目覚め、自主独立運動に飛びこむ。単独選挙に反対して起こった武装蜂起(四・三事件)の体験、来日後の猪飼野での生活など波乱万丈の半生を語る詩人の自伝的回想。『図書』連載に大幅加筆。
目次
第1章 悪童たちの中で
第2章 植民地の「皇国少年」
第3章 「解放」の日々
第4章 信託統治をめぐって
第5章 ゼネストと白色テロ
第6章 四・三事件
第7章 猪飼野へ
第8章 朝鮮戦争下の大阪で
終章 朝鮮籍から韓国籍へ
著者等紹介
金時鐘[キムシジョン]
1929年、釜山生まれ。詩人。1948年の済州島四・三事件を経て来日。1953年に詩誌『ヂンダレ』を創刊。日本語による詩作を中心に、批評などの執筆と講演活動を続ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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松本直哉
20
10代後半で済州島四・三事件の流血を身をもって体験し、間一髪で夜陰に紛れて島を脱出、家族と生き別れになって日本に渡る。アメリカ主導の反共政策への反撥、肉親も住む北朝鮮への希望と幻滅、来日後の貧困と差別の猪飼野での生活が、折り目正しい日本語で綴られる。植民地の朝鮮で皇国少年として教育された著者の日本への感情は愛憎相半ばして、憎むべき抑圧者でありながら日本の詩歌や童謡を愛してしまう矛盾。二つの国に引き裂かれた人の半生の辛酸は想像を絶する。これほどまで人を不幸にする国家とはなんなのか2016/11/26
BLACK無糖好き
15
在日朝鮮人で詩人でもある著者の波乱万丈の半生の回想記。著者自身想い出すまいと心の奥に仕舞い込んできた記憶を、ここまで引き摺り出してくる事自体、相当な苦痛を伴ったのではないかと推察する。済州島で皇国少年として育てられ、「解放」後自主独立運動に従事するも四•三事件で軍制警察の大弾圧から済州島を脱出し日本ヘ逃れる。皇国少年時代に日本の抒情詩に慣れ親しんだ日本語への複雑な想いが、解放後日本語に再び出戻る著者の内面の葛藤に鮮やかに表出される。著述全体が心情の機微のふるえのような詩情溢れる素晴らしい作品。2016/05/31
二人娘の父
13
「4·3事件」を実体験した在日朝鮮人で詩人の金時鐘の語り。当事者ならではのリアルと、複雑な想いの交錯が率直だ。事件の構図もより鮮明になる。「反共」「アカ狩り」が、何をしても良いとする免罪符になっているのは、島全体に対するジェノサイドとも言えるのではないか。米ソの朝鮮半島を巡る覇権確保の野蛮さに、心底憎悪を抱く。渡航し猪飼野に至る場面は「パチンコ」に通じ、日本で北の思想に染まっていく過程は、ヤン・ヨンヒ氏の父母が重なる。そうした歴史の重みと積み重ねの上に我々は生きている。2023/03/12
fseigojp
13
当事者だから書ける済州島事件2019/10/16
まちゃ
12
自分用メモ 解放軍であるはずのアメリカ軍の進駐で米占領軍事司令官ホッジ中将の声明によって朝鮮総督府の機能、権限がそのまま踏襲され、公務員の身分まで保障された事で親日派、民族反逆者の追及を受けて身を隠していた者が大手を振ってもとの職責に返り咲いた。財政界、司法検察、教育界、文化芸術界に至るまであっという間に元の木阿弥の旧体制が息を吹き返す。南朝鮮の解放とはまったくもって主人が日本からアメリカに入れ替わっただけのものだった。2020/08/26