出版社内容情報
「近代」という時代に入る清朝中国の舵を取った政治家・李鴻章(一八二三-一九〇一)。旧式の科挙官僚だった彼は、太平天国の平定に貢献することで実務官僚の第一人者に登りつめ、「洋務」と「海防」を主導する。そして外国列強と渡りあうも、敗北を強いられてゆく。清朝末期の時代と社会とともにその生涯を描き出す評伝。
内容説明
近代世界に入る清朝の困難な舵取りをした政治家・李鴻章(一八二三‐一九〇一)。旧式のエリート官僚だった彼は、内乱の平定に貢献して官界最高の実力者に登りつめた。二十年間、「洋務」「海防」を主導して外国列強と渡り合うも、日清戦争で敗北を強いられる。その生涯を一九世紀・清朝末期という動乱の時代とともに描き出す比類なき評伝。
目次
プロローグ―下関の光景
第1章 青年時代
第2章 動乱のなかで
第3章 浮上
第4章 明治日本
第5章 「東洋のビスマルク」
第6章 「落日」
エピローグ―新しい時代へ
著者等紹介
岡本隆司[オカモトタカシ]
1965年京都市生まれ。1993年京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。現在、京都府立大学文学部准教授。専攻は近代中国史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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崩紫サロメ
42
『属国と自主のあいだ』など、清朝関係史をを著してきた岡本氏による李鴻章の評伝。評伝という形を取りながら、東アジアの肖像を描くのは後の『袁世凱』『曽国藩』などにもつながっていく形式。洋務運動の中心となり、海防を唱えた李鴻章は、儒教イデオロギーの正論を唱える国内守旧派と武力を振りかざす外国の間で、妥協的な態度を取りながら、朝鮮に対し「属国」概念を強調せざるを得ない。そのことが生涯最大の失策である日清戦争へとつながっていく。2022/10/14
だまし売りNo
40
清末の政治家である李鴻章を描いた歴史書である。個人がタイトルになっているが、個人の頑張りよりも李鴻章が活躍する背景となった清末の社会情勢に着目している。清末は皇帝の個性よりも李鴻章ら臣下の存在が重要になる。それは清末の皇帝が能力的に劣ることを意味しない。人口の増大や経済の拡大によって皇帝の個人的能力で何とかする時代ではなくなっていた。2023/10/30
飯田健雄
35
明日、図書館に返す本。お金が100億あったら、陸奥宗光を主人公に脇に李鴻章をおいた日清戦争(下関条約)の歴史映画を作りたい。19世紀後半の中国は李鴻章をさしおいて語れない。中国という大国(19世紀後半落ちぶれたとはいえ)に対峙した陸奥を清朝を支えきれず疲れ果てた李鴻章の眼から描きたい。2022/01/18
skunk_c
25
19世紀後半という、中国激動の時代を生きた希代の官僚政治家の評伝。後書『袁世凱』よりも本人の人物像に触れている(例えばきわめて自負心が強い点とか)が、手法は歴史の中に人物を位置づけるやり方。清朝という少数民族支配の帝国が上手くいったのは、地方の自立性を巧みに監督しながら生かしていた点。その監督が外圧もあってほころびていく時代に、それを何とか緩和し押しとどめようと体を張った人物というのが一番の読後感。後付けの評価は如何様にでもなるが、その時代に果たして彼以上のことができたかと考えると、その大きさが分かる。2016/01/03
Toska
23
『袁世凱』と同様、本人の個性や人柄よりも、彼が活動した時代と社会の方に深く切り込んでいく著述スタイル。末期清朝は中央集権に程遠く、「大政治家」が活躍する余地の少ないグダグダな国だった。そんな中で孤軍奮闘した李鴻章は、確かに歴史上の巨人と呼ぶにふさわしい。既存の体制をぶち壊す側に回るのではなく、その崩壊を必至で護持する役柄は、勝海舟やゴルバチョフと比較したくなる(実際、勝は李鴻章を評価していた)。2022/09/02