内容説明
環境アセスメントは、持続可能な社会をつくるために必須のツールである。先進国の中で最も遅れて日本の環境影響評価が施行されてから一〇年あまりが経った。なかなか根づかないのは、対象事業が限定されるなど制度の問題が大きいからだ。計画・政策段階に対する戦略的環境アセスメントも含め、その本質と現状の問題点を論じる。
目次
序章 アセスメント後進国、日本
第1章 持続可能性とは何か
第2章 日本の環境アセスメント
第3章 環境アセスメントの本質
第4章 あるべき仕組み
第5章 戦略的環境アセスメント
第6章 アセスメントが変える社会
著者等紹介
原科幸彦[ハラシナサチヒコ]
1946年静岡市生まれ、1975年東京工業大学理工学研究科博士課程修了、工学博士。1995年より東京工業大学大学院教授。国際影響評価学会(IAIA)会長、日本計画行政学会会長、国際協力機構・環境社会配慮異議申立審査役などを務める。専門は社会工学、環境計画・政策、環境アセスメント、住民参加、合意形成(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Nさん
5
環境アセスメントは、規制手段ではなく事業者の環境配慮を誘導する手段。アセスには科学的知見と民主的な手続きが重要。日本のアセスは事業者の原案に対し、住民らの声の届く余地が小さい。業界・行政の決定に抗えず形骸化されたアワセメントに止まる。藤前干潟、愛知万博など例を挙げ、意味ある応答(積極的な情報公開と市民参加)が結果的に早期解決に繋がることを例示する。事業者をいかに環境配慮へ促せるか?法整備に加えて、政治的課題も山積。JR東海と静岡県知事が対立するリニア問題も、代替案なきJRのアセス無視ゴリ押し狙いが見える。2020/11/09
伊野
4
環境と経済はある程度トレードオフの関係があり、環境に与える悪影響が決定的である場合には事業中止まで視野に入れつつ、バランスについて議論することが環境アセスメントの役割という認識でいたが、現行法では事業ありきになりやすく、事業中止は困難な側面がある。とはいえ、産業界の歩み寄りの無さやそのことがもたらす自然保護団体の過度な抵抗が両者の溝をさらに深くしていき、アセスメントの効率が低下する構造が伺えるので「意味のある応答」をどの程度行えるかがアセスメントの有効性を左右する。2023/03/05
壱萬弐仟縁
4
日本はアセス後進国という。理由として、最近の原発立地の地層に今頃になって活断層の有無が論争されている事態、そういえるからだ。市民やNGOの監視がいかに重要なのか、改めて理解される。維持可能な発展という邦訳をした都留重人先生や宮本憲一先生のSustainable Developmentの考えは正しい(29ページ)。評者も1997年に書いた修論で脚注で示したことを想起した。今後起きてくることは、リニア新幹線へのアセスの適用であろう。JR東海もCSRに則って近隣住民の環境権を尊重し、着工するかの熟考を促したい。2012/12/22
Yuki_N
3
震災前の本なので少し古くなっているかもしれないが、日本の環境アセスメントの問題点と本来のあり方についてについての記述は現在にも当てはまる。事業者と住民のコミュニケーションを重視する点や、事業だけでなく政策レベルでのアセスメントには、規範政治理論の具体化という意味でも有意義な試みであると考えられる2015/09/08
Bon Voyage
2
環境アセスと聞くとあまりいい印象をもたないのはなぜなのだろう。 アセス後進国の日本。 オリンピックも近くなっている中で、アセス的な考えはますます大切になっていくことだろうに。 東京とニューヨークの対比はとてもわかりやすく、東京という都市がいかに特殊なのか理解できた。 環境アセス論は大学で学んだがもう少しじっくり学んでおけばよかった。2017/09/16