出版社内容情報
漱石を生涯苦しめたのは「近代の不安」などではなかった。それは母親の愛を疑うという、ありふれた、しかし人間にとって根原的な苦悩であった―現代を代表する文芸評論家が、漱石作品を読みなおしを通じて、批評の新たな地平を切りひらく。
内容説明
漱石が生涯抱え続けた苦悩。それは母の愛を疑うという、ありふれた、しかし人間にとって根源的な苦悩であった。『吾輩は猫である』『坊っちゃん』から『明暗』まで、この「心の癖」との格闘に貫かれた漱石作品は、今なお自己への、人間への鮮烈な問いとして我々の前にある―現代を代表する文芸評論家が、批評の新たな地平をしめす一書。
目次
第1章 母に愛されなかった子―『坊っちゃん』
第2章 捨て子は自殺を考える―『吾輩は猫である』
第3章 登校拒否者の孤独―『木屑録』と『文学論』
第4章 母を罰する―『草枕』と『虞美人草』
第5章 母から逃れる―『三四郎』『それから』『門』
第6章 母に罰せられる―『彼岸過迄』
第7章 向き合うことの困難―『行人』と『心』
第8章 孤独であることの意味―『道草』
第9章 承認をめぐる闘争―『明暗』
著者等紹介
三浦雅士[ミウラマサシ]
1946年青森県生まれ。評論家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たりらりらん
12
三浦氏の漱石愛が伝わってくるような一冊。『吾輩は猫である』から『明暗』まで、その底流にあるのは、愛されなかったのではないかという漱石の母への思いであったとする。ここで「愛されなかった」(捨てられた)と「愛さなかった」(捨てた)という関係は、逆転するものでもあるという指摘が素晴らしい。『こころ』においては、先生やKが、被害者であると同時に加害者でもあるように、常にその関係は一義的ではないということをわかりやすく指摘してくれる。漱石の入門書としてもよいのでは。2011/02/09
雨巫女。@新潮部
10
《私‐図書館》幼少の話は、知ってましたが、作品に影響をうけてたなんて。2012/03/06
五月雨みどり
9
夏目漱石の生い立ちから「母に愛されなかった」思いを主題に綴ったのが漱石文学であると解説する異色の本。確かに作品の底に流れているのは漱石独特の人生観であろう。自分も里子に出された幼児期を過ごしたから、これは涙なくして読めなかった。だが。今まで漱石作品は何冊か読んだが自分にはあまり面白く読めず、アダルトチルドレンばりの心理描写があったかは記憶に無かった。うーん改めて読んでみるか漱石。2016/12/03
onaka
8
漱石は母から愛されなかった子。じゃあ消えてやるよという論理、愛されていないなら、そう宣告される前に、先回りして愛されない自分を仮構する。それが自殺、狂気、笑いという形として現れ、世界に対する超然とした態度を通って、愛されていることに気づかない罪と復讐の物語や承認を巡る闘争の物語に至る。疑い得ない自分から考え始めるのでない、何者かによって考えさせられているのではという疑念が常に背景にある。自分の問題を出発点にして、人間全体に拡張し共感を生む、漱石の文学の真髄はここにある。漱石、読みたくなったよ!2013/08/01
タカヒロ
5
三浦雅士氏の漱石論。母という縦糸で漱石を読み解く。作家論的な読みに偏っている部分もあるが、漱石と母、そして、漱石作品に通奏低音のように流れる死というテーマを掘り起こしてくれたという意味では自分にとって意義深い一冊。2014/01/03