内容説明
「指輪物語」「ゲド戦記」「ナルニア国ものがたり」。子どもたちを、そして今や大人たちをも惹きつけてやまない、魔法ファンタジーの不思議な魅力の秘密を解きほぐしていく。伝承の世界にその系譜を探り、細部のリアリティにその力を見出し、さらにそこには危険な罠すらひそんでいることも明らかにする、本格的な案内の書。
目次
第１章 ファンタジーへの入り口
第２章 魔法とファンタジー
第３章 善と悪の戦い
第４章 伝承の謎と魔力
第５章 「中つ国」とナルニア
第６章 別世界からの帰還
著者等紹介
脇明子［ワキアキコ］
１９４８年香川県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修了。ノートルダム清心女子大学教授。専攻、比較文学（幻想文学、児童文学）（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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kasim
35
気取りのない平易な文で書かれた良書。前に読んだ小谷真理さんの『ファンタジーの冒険』が通史的な本だったのに対し、こちらはトールキン、ルイス、ル・グウィンなどを実例にとってファンタジーに魔法が出てくることの意味を考えていく。著者によると、最近（2006年現在）の若者は視覚的で娯楽本位の魔法には慣れているものの、文字で書かれたファンタジーはとんと読めないらしい。しかし文字による情報の理解こそが重要で、かつ良質な作品には丁寧な描写がある。ファンタジーはリアリズムに支えられるという矛盾は非常に面白く、説得力もある。2022/07/15
烟々羅
22
「ファンタジーは絵空事であるからこそ、丹念な現実の描写から入らないとリアリティを持たない。取っつきにくいが必要だ」同意。観念で小説が書けると思っていた中学生は、原型の神話のバリエーションとしか受け取っていなかった山田正紀（当時の作品＝初期）にすら読み飛ばしていた描写が読者を誘（いざな）っているのに気づき、書くことは難しいと知って現在に至る。 「悪とは無作為や不注意の集合であり、悪を倒せば／仕返しをすれば世界が良くなるというファンタジを子供に与えるのは有害だ。『ゲド戦記』は良いが『チョコレート工場の （続く2012/09/29
ふじ
18
ファンタジーについてぼんやり感じていたことが言語化されていた。アニメ・ゲームの隆盛も手伝って際限なく浸れる世界、だからこそ良質なものを見極める必要がある。筋を追うだけで描写の深みのないもの、面白さを優先し設定の整合性を欠くものが多い。異世界の冒険を通じて現実の己の心や五感が育まれるのが醍醐味なのに。深い読みが不要→印象に残らない→残虐等刺激の強いものが増えるという悪循環がある。最終章で述べられた「人間性の闇の部分も理解した上で、しかも嘘をつかずに希望を語る物語」が今求められているというのに納得。2021/09/07
ジャックン
9
学校の課題で新書を読まなければならなかったので。ファンタジーが大好きなので、『不思議な魅力を解き明かしていく』という言葉に惹かれて手に取ってみたが、ハズレだったかもしれない。まず、余程気に入らないのか『最近の作品』と全て一括りにして批判していたのはどうかと思う。昔のファンタジー作品をルーツまで辿って解説するくらいなら、最近の作品の方ももう少し深く調べた上でやってもらいたかった。この出来だと、ただの好き嫌いを知識で覆っているだけのものに感じられる。共感できる点は無くはなかったし、勉強にはなったが。2016/12/12
サアベドラ
9
児童文学研究者・翻訳家によるファンタジー文学論的エッセイ。主に取り上げるのは『ゲド戦記』『指輪物語』『ナルニア国物語』。それらを構成する諸要素を論じることにより、（著者の考える）子供にとって良いファンタジーとは何かを考える。ロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』は懲罰色が強すぎるとして批判的、「ハリー・ポッター」は黙殺。ビジュアルや刺激的な内容を重視する昨今の（著者に言わせれば）質の低いファンタジーに対する苦言があちこちに。まあ、いいたいことはわかりますけど、あからさますぎるのはちょっと・・・2015/05/20
