出版社内容情報
現代文明を築きあげた基礎科学の一つである物理学という学問は,いつ,だれが,どのようにして考え出したものであろうか.十六世紀から現代まで,すぐれた頭脳の中に芽生えた物理学的思考の原型を探り,その曲折と飛躍のみちすじを明らかにしようとする.著者は本書の完成を目前に逝去,下巻は遺稿として刊行された.
内容説明
本書の完成を前に著者は逝去された。遺稿となった本論に加え、本書の原型である講演「科学と文明」を収める。上巻を承けて、近代原子論の成立から、分子運動をめぐる理論の発展をたどり二十世紀の入口にまで至る。さらに講演では、現代の科学批判のなかで、物理学の占める位置と進むべき方向を説得的に論じる。
目次
1 近代原子論の成立(ドルトンの原子論;気体の法則、化学反応の法則)
2 熱と分子(熱のにない手は何か;熱学的な量と力学的な量;分子運動の無秩序性)
3 熱の分子運動論完成の苦しみ(マックスウェルの統計の手法;エントロピーの力学的把握;ロシュミットの疑義 ほか)
著者等紹介
朝永振一郎[トモナガシンイチロウ]
1906‐79年
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1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
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molysk
40
下巻は、原子論、熱学、および分子運動論について。原子という哲学上の学説が、実験によって存在が確からしいものとなり、熱運動の担い手は分子の運動エネルギーと考えられるようになった。だが、熱力学のエントロピー増大という不可逆性と、古典力学の時間反転対称性による可逆性は、どう整合が取れるのか?圧力や温度という熱力学変数は巨視的にのみ観測可能であり、莫大な数の微視的な分子の運動は平均化された統計量となる。初期状態における外れ値は、平均へと不可逆に回帰する。これが統計物理学の考えだ。筆者逝去で、本論は遺稿となった。2020/06/27
ひろ
14
下巻は熱分子運動論の話がメイン。確率論が大きく寄与していることや、ボルツマン、マクスウェルらの理論完成への苦悩など、壮大なドラマがあったんだなと改めて勉強になった。科学のもたらす良い面と悪い面を、神話や哲学を取り入れながら論述していく『科学と文明』も感慨深く、未来の科学のあり方を読者に問いかけてくる。著者の急逝により未完で終わってしまったことは非常に残念ではあるが、物理学の本質を解りやすく説いてくれることに、畏敬の念を抱かずにはいられない。2014/04/13
ベンアル
11
図書館にて借りた本。先日、上巻を読んで共読を覗いたところ、どうやらノーベル物理学賞を受賞した方のようだ。気を入れて読んでみたが、熱の分子運動論で挫折した。これを導入するにあたり、目に見えない無数の粒子の個数やスピードを確率的手法を用いているかについて詳しく説明している。最後は物理の歴史について語っており、宗教との対立、産業革命、原爆の開発による後悔について記載されている。著者は亡くなるまで、この本を作るにあたり多数の論文に目を通しており、いかに物理への情熱があるかを思い知った。2022/09/06
roughfractus02
7
原子論から統計物理へ展開する本巻は、生成比が整数というデータから分子を予想した気体研究に潜む原子論的前提をひっくり返したボルツマンを中心した熱力学論争に沿って進む。温度や圧力から見れば各分子の動きは問題にしなくていいと考えたボルツマンは、空間を箱状に区切り、そこを出入りする分子運動の記述を試みた(エルゴード性)。著者はここに確率を導入して根拠が弱いまま統計物理に舵を切る物理学に科学の技術論的転回を見る。著者の病で途中で終わる本書だが、最後の「科学と文明」で技術と科学の関係を問う著者の態度は今も色褪せない。2022/04/04
Happy Like a Honeybee
7
近代物理学の成立。仮説を導入し、その当否を実験検証する。力学、音響学、熱学など私たちの生活と密着な関係にある。物理学とは社会と人間の視点、さらには哲学的視点から考え直す問題だろう。 文中に東海道新幹線が1976年で時速200キロとあり、イノベーションの恩恵を痛感する次第。2016/01/04