出版社内容情報
アジア各地への旅行において,私たちは,自分たちに共通する何ものかを感じ,近代および現代日本の運命について,さまざまに思いをめぐらさざるをえない.古い文明の重荷を担いつつ新しい未来を切り拓こうと苦悩するインドへの旅.鋭敏な現代感覚をもつ作家によるこの思想旅行記は,同時に現代日本に対する文明批評の書でもある.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
岡本正行
89
もう70年も前のインド紀行、日本の作家代表としてインドで世界中から作家が集まった。お互いの文学も知らず、日本自体も、まだ経済大国になろうとして、その後の世界の変化も知らないまま、発展途上にあった時代。無視rぽ敗戦後の影響が残っていた時代だ。そこへインドという、敵視的に観れば、わが国よる数千年も歴史ある国、しかし厳しい自然条件、人口過多様々な要素が我が国とは違う、今も同じく未知の国である。いまや人口は中国を抜き、核兵器を保有し、これからのグローバルサウスの代表的な国だ。私も、ぜひ行きたい国の一つである。2023/12/16
ワッピー
42
今から70年ほど前のネルー時代に堀田氏が文学者会議のスタッフとして渡印し、アジア各国の文学者と交流した記録。インドという、空間的にも時間的にも膨大な広がりを持つ存在にぶつかって散った火花は、当時の国際情勢を反映すると同時に、またインド哲学の深遠さ、豪奢にして貧困、偉大にして卑小、古くて新しい、両極端を併せ持つこの国の巨大さを示しています。この本はきれいに分類・整理された分析本ではなく、著者の価値観全身に負った傷の記録といっても過言ではないほど堀田氏の苦闘と懊悩に満ちています。インドに行かずに楽しみました。2020/07/15
まると
32
1957年刊。作家会議で2か月滞在したインドの何もかもに面食らいながら、その文化・宗教・人々について理解しようと思考を巡らせている。そしてアジアの中の日本の特異性、漱石の言う「外発的な上滑りの開花」「空虚感」についても深く深く思索している。堀田さんの思考の深め方をたどる読書は幸せな心地ではあるのだが、あまりに深すぎて理解が足りない。最後の35ページは2度読んだが、その結論たるや難解過ぎて自分の理解を超えていた。とにかくこの人の文章力はとてつもないと改めて感嘆。到底かなわないとあきらめの境地に至るほどです。2022/12/31
紙狸
22
1957年刊行。高校生のころ読んだはずだ。今読みなおしても面白かった。作家堀田善衛は56年~57年の数か月間、アジア作家会議に出席するためインドに滞在した。当時のネルー首相に間近で接した印象を記している。「底なしに複雑きわまりない人」。自分の中に「反射鏡を十も二十ももっている」ようだと。ネルーといえば、非同盟運動を提唱して世界的な存在感があった人物だけに、貴重な描写だろう。市井の老人や青年と交わした会話も興味深い。2023/07/07
Toshi
21
こちらが本家である。シーナさんは、カレーやサリー、ターバンについて考えたが、1956年、高度成長期の始めにインドを訪れた堀田善衛氏は、インド、アジアとの出会いの中で日本を、自分を顧みる。所々、時代を感じさせるステレオタイプはあるものの、友人に話すような語り口を含めて、今読んでもとても新鮮である。2023/09/16