出版社内容情報
ボタ山のふもとの納屋生活のあけくれ,また,一秒後の生命の保証もない坑内労働の合いま合いま,折にふれて老坑夫たちの語ってくれた,懐かしい笑い話.“幼い頃から筑豊炭田のあらあらしい脈動をききながら育ち,敗戦後はいくつかのヤマで働き,生涯を炭鉱労働者とともに生きたいと願ってきた”著者が生き生きと描き出す労働者像.
内容説明
ボタ山のふもとの納屋生活のあけくれ、また、一秒後の生命の保証もない坑内労働のあいまあいま、折にふれて老坑夫たちの語ってくれた、懐かしい笑い話。“幼い頃から筑豊炭田のあらあらしい脈動をききながら育ち、敗戦後はいくつかのヤマで働き、生涯を炭鉱労働者とともに生きたいと願ってきた”著者が生き生きと描き出す労働者像。
目次
1 笑い話と身の上話
2 死霊の話―働く幽霊
3 八木山越えの話―ヤマの嫁盗み
4 特別キリハの話―女坑夫の哄笑
5 スカブラの話―黒い顔の寝太郎
6 ケツワリの話―脱走と流亡
7 離れ島のケツワリの話
著者等紹介
上野英信[ウエノヒデノブ]
1923‐87年(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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びっぐすとん
16
図書館本。凄い話だ。明治から戦後復興期までの日本を支えてきたのはこういう地底の労働者なのだ。炭鉱夫になったらもうお天道様の下では働けない。ケツワレしてもまたどこかのヤマで働く他はない。「いろはを習うよりスラを曳け」炭鉱夫の子供にはそもそも他の選択肢がない。危険で劣悪な環境で朝地下に入って夕方出てこれる保証もない。命懸けのキリハでは笑い話が恐怖や衝動をギリギリ食い止める。地下で狂う女が美しい。その日を生きるだけで精一杯なのに老いるまで生き延びた炭鉱夫は明るい。死と隣り合わせだからこそ生の実感があるのだろう。2020/01/05
michel
15
★4.0。『追われゆく坑夫たち』とぜひセットで読んでほしい。老坑夫たちが、ふと語ってくれた「笑い話」。生活と労働のもっとも重い真実をそう名付けた、彼らの魂を上野英信さんの魂を揺り動かし、美しい感傷文となって、私たちの魂を揺り動かしてくれる。2020/02/09
riviere(りびえーる)
8
「世界記憶遺産」として炭鉱記録画家山本作兵衛氏の作品が認定されたことが先日新聞に載りました。それを見て、あの本の挿し絵の人だっ!とすぐわかり、9年ぶりに再読。劣悪な環境の中でもたくましく生きる炭鉱夫たちの記録。この絵には凄みがあります。記憶遺産に文句なく認定される価値ありです。2011/05/29
p31xxx
7
地の底の笑い話は、苛烈な地底で適者が生存したと同じく、彼らの口伝てに生き延びたに過ぎず、炭鉱が廃れて構造が抜き取られるとともに語られなくなったのだなと感じた。ほとんどが生死を懸けた武勇伝に言い換えられそうな話だ。貧困、脱走、拷問……章が進むにつれより地下深いところへ潜るように炭鉱の社会の暗部に近づいてゆく。ただ、著者の書きぶりは人情がどこにもあるということを言っている。人間、どこまで行っても笑い飛ばすことができるのだという迫力がある。2021/01/16
ちあき
7
炭鉱労働者たちからの聞き書きをもとに書かれた新書。「何年何月」を確定するルポルタージュの手法とはほど遠い、しかし『遠野物語』のように口承の集成でもない、記録文学としかいいようのないスタイル。三池争議のあとに刊行された書物としては意外なことに大型労働争議に関する言及がないが、これは回顧し愛惜する感情の記述を優先させた結果だろう。ケツワリ(脱走)を扱った章ははじめて知ることが多く、引きこまれるようにして読んだ。森崎和江『奈落の神々』では回顧と愛惜の感情がどのように処理されているのか、ぜひ読みくらべてみたい。2011/02/10