出版社内容情報
昭和二○年三月一○日.一夜のうちに東京の下町一帯を焼け野原に変え,八万人にのぼる死者で街や河を埋めた東京大空襲の惨状――.自身被災者でもある著者が,生きのびた人々を訪ね,戦後二十五年のあいだ埋もれていた記憶を再現しつつ,無差別絨緞爆撃の非人間性を暴き,庶民にとって戦争とは何であったかを訴える.
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
へくとぱすかる
70
「勝元、見とけ、これが戦争の姿だぞ」とつぶやいた著者の父親もほどなく亡くなっていく。東京大空襲の地獄そのものの夜の体験を聞き取り、著者自身も当事者として、その体験を証言する。町が溶鉱炉のように熱で包まれる恐ろしさが、このわずかに生き残った人々の証言からでさえうかがわれる。ふと、これは原爆の被害を描いたものと酷似しているのに気がついた。通常兵器でさえここまでの惨禍をもたらしてしまうのである。戦争がいかに人々を翻弄し、不幸を、そして無残な死をもたらすかを、決して忘れてはならない。そして風化させてはならない。2019/01/30
とみやん📖
14
74回目の敗戦の日を迎え、ヒロシマナガサキと並び、米軍の非戦闘員への無差別爆撃である東京大空襲について学んでおこうと手にした。 わずか2時間22分の焼夷弾による絨毯爆撃で、8万人の無辜の市民が亡くなったとは。それに対して、大本営、警視庁、東京都など、当局の事実隠蔽や冷たい仕打ちがさらに追い討ちをかける。何年経っても絶対に忘れてはいけない事実だと感じた。言問橋や錦糸公園など、今でも多くの人たちが行き交う場所で、我々の先達が熱風や火炎などに苦しみながら亡骸になったと思うといたたまれなくなる。2019/08/17
さっと
13
ほぼ聞き書きで構成され、新書で読みやすい。わずか一夜、空襲の時間にして2時間少しで8万人の命が消えました。アメリカ空軍の綿密な空襲計画と、「爆撃できるものがひとつでものこっていると判定したら、編隊にとどまらず爆撃せよ」という非情な命令が東京を焼き尽くしました。本書の数字によれば、その被害(死者や破壊面積)は比較することではありませんが、原爆の落とされた広島、長崎を上回ります。そして、その被害を「その他」と切り捨てた大本営、アメリカの空襲指導者に勲章を授与した戦後日本・・と、どこまでも凄惨な記録に息をのむ。2014/02/16
モリータ
12
◆1971年刊。著者経歴は別書の感想に。2022年死去。「ここには、当時一二歳の少年の私をふくめ、警視庁カメラマンだった石川光陽氏をのぞいて、八人の下町庶民が登場する。私はこの八人の名もなき庶民の生き証言を通じて、〝みな殺し〟無差別絨緞爆撃の夜に迫る。話すほうも、きくほうもつらかった。だが、そのつらさに耐えてくれた人のために、そしてまた、ものいわぬ八万人の死者のために、私は昭和二〇年三月一〇日を、ここに忠実に再録してみたい。私の人間としての執念のすべてをこめて。」(7頁、序章より)2022/08/04
佐藤一臣
11
関東大震災は地獄だったが、東京大空襲も凄まじい。人災であるというのがやりきれない。防火義務があって家主は引っ越しできず、用意周到な米軍の鬼畜作戦は油まで空中散布している。折り重なる死体の下にいて助かるとか、荷物を持つことで引火したり川に沈んだり、背中におぶっていた子が窒息したり火に焼かれて亡くなったいたことが後でわかったり。こんなことが、いまも世界のどこかでどうしたわけか起きている。戦争の理不尽さを理解することができない人たちが多勢いるのはどうしてなんだろうか? 2022/10/11