出版社内容情報
ゴッホ(一八五三‐九〇)が一発の銃弾で三十七歳の生涯を閉じたとき世人はその作品をガラクタとしか見ていなかった.この書簡集はこうした世の無理解や悪意と戦って画業に燃焼しつくした天才の類まれな魂の記録である.上巻には親友であった画家ベルナール宛の,中・下巻にはいわば生涯を兄にささげた弟テオドル宛の書簡を収めた.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
財布にジャック
70
「いずれは僕の絵が、それに注ぎ込んだわずかな額の絵の具や僕の生活費以上の価値があることを認められる日は、きっと来ることだろう」という文章が印象的です。彼の生前は辛くて苦しいことの連続でした。この下巻の手紙をゴッホが書いていた時代の悲し過ぎる出来事を思うと、涙を堪えるのが大変でした。ただ、彼の絵画に対する情熱は亡くなるその時まで途切れることはなかったのだと、最後の手紙を読みながら確信しました。オランダに2年前に行って数々のゴッホの絵を観た時の事を回想しながら本を閉じました。あとがきも興味深かったです。2013/03/21
壱萬弐仟縁
43
1953年。画家はみんな労働者のような生活をしなければいけないのは、ほんとのことじゃないかね。大工だって鍛冶屋だって、いつも画家よりはずっと多くの生産をしている(37頁)。40歳になって、ゴーガンの言う花の絵のような人物画が描けたら、誰とでも肩を並べられる芸術家の地位を得られるだろうが。まあ、それまでの辛抱だ(74頁)。いま一番肝心なのは君の結婚式が遅らされないようにすることである(102頁)。2021/06/23
aika
39
画材とお金を手紙で頼む兄ゴッホに、必ず工面する弟テオの献身が胸を打ちます。貧しさの中でも決して消えることのない、表現への情熱。耐え難いゴーギャンとの別離、耳を切り落とさなければならないほどの精神状態であっても、手紙の文体は均整がとれていて、画家その人の確固な理知が印象的でした。入院で思うように外出ができず、悶々とした日々の中で描いた麦畑が、今まで描いた作品で一番明るいと思ったこと。苦しみの中で明るさを生み出すのがゴッホなのだと感じます。晩年の、批評家の痛烈な記事に憔悴する姿が物悲しく響きました。2022/05/15
あかくま
23
もう少し、あと少し生きていれば・・。この人を死に向かわせてしまったのは何だったのだろう。最後の方の手紙を見る限り、人生に絶望してしまっているようには思えない。仮定は意味のないことと解ってはいるけれど、テオの他にすぐそばで彼を支えられる人がいたならば・・。この手紙を読んだ後の、彼を悼む気持ちは、自分でも少し驚くものがあった。物語を作品に投影して見るのは、多分に目をくもらせる・・と思ってはいても、「星月夜」や「夜のカフェ」、「ひまわり」が前と違って見えてきてしまう。もっと鮮やかに、もっと狂おしく。2014/05/17
ロビン
21
下巻も弟のテオドル宛。ゴーガンとの共同生活が「耳切り事件」で終わりを迎えるアルル時代から、精神病治療院に入院していたサン=レミ時代、自害することになるオーヴェル・シュール・オワーズ時代の書簡を収録している。ゴッホは狂気の発作で他人を傷つけることを恐れ入院しはするが、正気の時は非常に理知的だし、絶えず仕事をし、オワーズではレンブラントやミレーの模写をしている(ゴッホにはオリジナルの宗教画はなく、レンブラント「ラザロの復活」の模写など数枚があるのみ。理由は不明だが、この絵ではあえてキリストを描かなかった)。2021/12/31