出版社内容情報
大正7年5月、20代の和辻が奈良付近の寺々に遊んださい、その印象を若さと情熱をこめて書きとめる。
内容説明
大正七年の五月、二十代の和辻は唐招提寺・薬師寺・法隆寺・中宮寺など奈良付近の寺々に遊び、その印象を情熱をこめて書きとめた。鋭く繊細な直観、自由な想像力の飛翔、東西両文化にわたる該博な知識が一体となった美の世界がここにはある。
目次
アジャンター壁画の模写
ギリシアとの関係
宗教画としての意味
ペルシア使臣の画
哀愁のこころ
南禅寺の夜
若王子の家
博物館、西域の壁画
西域の仏頭
ガンダーラ仏頭と広隆寺の弥勒〔ほか〕
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
58
仏教にも仏教美術にも疎い私が実際に仏像や画を見ることなく本書を読んでも底が知れるというものだ。しかし、この本の良さは分かったつもりだ。本書を持って大和の古寺を訪れたい。ありきたりだがそう思った。本書は1919年に出版されて以来、多くの人に読まれてきた。その多くの人が私と同じ思いを持っただろう。この岩波文庫「青144-1」は1946年に著者が手を加えた改訂版のようである。旧版に比べ添えた部分より削った部分が多いそうだ。ちくま学芸文庫から旧版が「初版 古寺巡礼」として出版されている。比べてみなければなるまい。2013/05/24
たかしくん。
52
学生の頃に、その文章・内容の難解さに挫折。その後も、敷居が高すぎで敬遠していた作品でした。来月家族で奈良に行くこともあり、改めてトライしました。既にレビューでも言及されてますが、和辻哲郎という先入観なしに、30歳手前の仏像マニアのエッセイと考えれば何とか気楽に読めます。インド・中国(シナ)から伝来の日本の飛鳥文化に古代ギリシャ文化との共通性を見出すところ、また、万葉集とその背景から考えられる当時の男女の恋愛事情等、興味深いコメントが自然と浮かび上がってきます。奈良巡りの良い予習にもなりました!2014/06/29
レアル
50
大正7年に著者が奈良の古寺を訪れた際の紀行文。しかしただの紀行文と違いその内容が重厚。特に仏教美術に関しての著者の博識と熱い想いが伝わってくる。今回は法隆寺へ訪れる際の法隆寺の稿を特化して読んだが、寺院だけでなく、伎楽や仏教観と言った内容の稿も興味深い。2018/11/08
ころこ
44
単なる興味だけでは読み進められなかった。古典文学、美術、仏教とその伝来史、そして何より奈良の土地勘があると読み応えが違うのではないか。最も印象深かったのは、出征の前の一期の思い出に奈良を訪れるということだ。彼らは寺と仏像と向き合うことで自分の身体性を確かめる必要があったのだろう。国家神道とは異なり、かつ最も古い日本文化のルーツを知るということは批評性を帯びる。その複雑な日本のルーツは、近代化以降につくられた単純な国家の物語には回収できない余剰があったので、本書は重版にさいして警戒されたのではないだろうか。2023/10/20
Book & Travel
44
哲学者・和辻哲郎が二十代だった大正7年に奈良の古寺を巡った際の旅行記、美術鑑賞記。文章の表現が瑞々しく、後に改訂されたとはいえ、100年近く前に書かれたとは思えない。大正8年刊行以来多くの人が本書を手に奈良を訪れたそうだが、当時としては斬新な作品だったに違いない。数々の仏教美術の名作を前にした感動が情熱的に表現されていて、艶っぽい所に惹かれがちなのも若者らしくて面白い。それでいて、古今東西の美術に関する深遠な知識に基づいた考察は勉強になることばかり。奈良を訪れ、同じ作品を見ながら再読してみたいものだ。2016/10/14