出版社内容情報
明治40年,足尾鉱毒事件で知られた谷中村が強制破壊される事態に接して,荒畑寒村が一気に書き上げたドキュメンタリー.その惨状を後世に伝えようとする著者の熱意が伝わってくる社会科学の古典.(解説=鎌田慧)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
molysk
58
渡良瀬川の洪水にしばしば襲われるも、肥沃な土壌に恵まれた、栃木県谷中村。しかし、足尾銅山から流れ出す鉱毒で、土地は汚染され、作物は実らず、飢えに苦しむ村民は政府への陳情を行い、ついには田中正造の天皇への直訴に至る。各地の鉱毒反対運動への波及を恐れた政府は、村民を救済するどころか、堤防を破壊して村を水没させて、その土地を不当な安価で奪って、谷中を強制廃村とする。資本家と結託した政府によって、無辜の平民が犠牲となった谷中村滅亡の記録を、悲憤の想いに駆られた若き筆者が、一気呵成に書き上げたのが、本書である。2022/06/19
壱萬弐仟縁
15
底本1907年。著者20歳のときのもの(181頁)。鉱毒問題。「大雨一たび至れば滔々たる毒流は、堤を決して全部を浸す、あゝこゝに至つて人生の惨事も、また極まれりといふべきかな」(60頁)。人生の惨事と、天災に人災。厳しいなぁ。人民の生命、財産、権利、自由(73頁)。かけがえのない価値。「金力と権力とは、現社会における尤とも強大なる勢力ならむ。されどこれらに増して強きは、実に正義の力」(160頁)。明治政府と資本家の強大さよりも、正義の力を信じる(174頁)。いつの時代、どこの地域でも、正義を根底に据える。2013/09/29
猫またぎ
9
連綿と続く負の歴史。変われないから変わらないのか、変わろうとしないから変わらないのか。2023/07/07
belier
6
足尾銅山事件について、二十歳の青年による悲憤慷慨のルポルタージュ。文語体でリズミカルに著者の怒りがびんびん伝わってくるパンクな作品だ。メインはタイトルにある谷中村の滅亡。政府と古河は銅山開発で鉱毒を流し農作物に被害を与えただけでなく、官林を古河に払い下げ山林を切り崩したため洪水が多発。下流に鉱毒が流れ込むことを恐れたか、明治政府は豊かな村であった谷中村をつぶして今でいう遊水地にする。納得しない農民に対する、手段を選ばない政府の仕打ちのひどさを寒村は渾身の力を込めて訴えている。古典というのも納得。2021/12/19
勝浩1958
6
谷中村の人びとの棄民に等しい仕打ちを当時の政府から受けていたことを知りました。いまの社会を見わたしても、福島第一原発事故による被災地での仮設住宅や沖縄米軍基地のまわりに暮らす人びとへの政府の対応からはなんら誠意が見えてこないです。アベノミクスや東京五輪招致に浮かれているあいだに、都合の悪いことは忘れ去られていくような気がします。2013/09/28