内容説明
詩人として出発したボルヘス(一八九九‐一九八六)がもっとも愛し、もっとも自己評価の高い代表的詩文集。内的必然にかられて書かれた作品の随所に、作者の等身の影らしきものや肉声めいたものを聞くことができる、ボルヘスの文学大全。一九六〇年刊。
目次
レオポルド・ルゴネスに捧げる
創造者
Dreamtigers―夢の虎
ある会話についての会話
爪
覆われた鏡
Argumentum ornithologicum―鳥類学的推論
捕えられた男
まねごと
デリア・エレーナ・サン・マルコ〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あさうみ
43
短編というには短い、これが詩文なのか!おすすめされて読みました、ボルヘス!幻想感あふれ、読んでいると頭がくらくらする文もある。もちろん「…ん?」とまだ理解できない文も(笑)読めば読むほど、違う感想を持つ文学的要素を漂うものも多くの味を知れる。もっと彼の作品の深淵を覗いてみたい。下段に語句の解説があるのも非常に嬉しい。2019/09/07
zirou1984
39
記号的な表紙姿が印象的な、ボルヘスが還暦時に編纂した詩文集。ボルヘスの短編がどれも円環を為す無限回廊を形成しているのに対して、ダンテからの直接的な影響を反映させつつ韻文/散文で紡がれる本作は夢や鏡、死の世界等のテーマを用いて夢幻迷宮への入口を創造する。また時に亡き友人たちや自らの老いについて語られる言葉はとても人間的であり、ボルヘスの各種著作の中で最も彼の素顔が見える作品だと言えるかもしれない。そしてエピローグの言葉通り、その顔は世界について描こうとした、無数のイメージが織り成す迷路によって作られている。2013/07/05
スプーン
35
ボルヘスの散文詩は、狂気が書かせた英知である。その先は神へつながっている。2019/09/16
長谷川透
29
相性がよかっただけなのか、短期間に集中してボルヘスを読んでいるから自分の身体が馴染んできたためか、最も自分の身体に抵抗なくボルヘスの声が浸透してきた作品だった。創造者は、本編の中の一篇の題名であるとともに、この本の、突き詰めて言えばボルヘスの世界を端的に示す言葉と言えよう。この本の創造者は勿論ボルヘスであるが、創造者とは本来は神のことである。小説世界の創造は疑似的とは言え神になることだ。では創造者は全能者なのか。きっと違うのだろう、ボルヘスの筆致からは創造者であることの畏怖をただただ感じるばかりであった。2013/07/04
マウリツィウス
28
ボルヘスの還元した修辞/隠喩を引用-ポストモダニズム批判を否定に求めるならば聖書史上における「概念史」をボルヘスは再現していった。そして《古代ユダヤ教》テクストをボルヘスは暗号記録化する。ジョイスは「古典史」を明晰に刷新していく。それに対し《新約聖書》正典主題とボルヘスは合致するもHacedor/創造者を鋳造した。古典古代を象徴化した理論を《再現化》、ホルヘ・ルイス・ボルヘスは蘇る。恐らくこの暗号テクストを突破した彼は「司書ホルヘ」参照痕跡(エーコ)をも残している。/古典史・聖書史を束ねた残影記録文書集2013/12/28