岩波文庫
子どもたち・曠野 他十篇

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  • サイズ 文庫判/ページ数 394p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784003262368
  • NDC分類 983
  • Cコード C0197

内容説明

子どもの個性を見事に描き分けて楽しい「子どもたち」。南ロシアの曠野を幌馬車に揺られて旅を続ける少年の目に映った豊かな大自然とおとなたちの姿を、倦むことのない悠々たる筆致で描き、チェーホフの作家としての画期をなす中篇「曠野」。他に、「いたずら」「ワーニカ」「ロスチャイルドのヴァイオリン」「学生」等を収録。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

みつ

29
中篇『曠野』とその前後の短編11作を収める。『曠野』では、9歳の少年が遠くの中学校に入学するため商人の伯父と神父とともに馬車に揺られた後、商用のため伯父たちとも別れ、一人で荷物馬車で旅を続ける。情景描写と少年の寄るべない気持ちが淡々とした筆致で描かれる。これより以前の作は、境遇こそ違え子どもたちが主人公の『子どもたち』『ワーニカ』『家庭で』がいい。以降に発表された3作は、自ら選んで15年を蟄居して暮らす『賭け』、老いた棺桶屋の『ロスチャイルドのヴァイオリン』、ペテロの否認を背景にした『学生』と深みを増す。2024/04/26

gogo

19
チェーホフが20代末に著した中短編集。「いたずら」「ヴェーロチカ」「ロスチャイルドのバイオリン」「学生」が良かった。特に「学生」には不覚にもうるっとするほど感動した。ある寒い晩、学生は農婦たちと火に当たりながら、最後の晩餐でペテロが主イエスを裏切った話をする。そこから、現在は過去の次から次へと流れ出る事件の連鎖によって結ばれており、昔の真理と美が今日まで人間生活の主要なものを形作ってきたことに気づく。そして彼は人生の高尚な意味を悟る。「いたずら」「ヴェローチカ」は女の子にモテる、青年の話。(↓続く)2017/12/03

彩菜

18
チェーホフの書く少年エゴールシカの旅はなんて魅力的なんだろう。少年を始め人々は人間存在の複雑さのまま、まるで生身の人間に向き合うように私の興味を惹き付ける。筆に宿る共感と誠実さは人々の醜い瘤や皺すら美しく思わせる。彼は人間を描く作家なのだろう。詩的な曠野の旅、少年が生と死を肌で感じ、公爵夫人から貧しいユダヤ人まで次々見る事になるその旅は、少年が世界へ踏み出す為の一種の通過儀礼にも見える。少年は幼くここで会う人々はみな労りと保護を与えるが、次の旅は一人で行かねばならないだろう。さあエゴールシカ、涙をふいて。2020/04/20

ぺったらぺたら子 

18
『聖夜』のみ再読。全集で読むと、この時期の著者は大切な人を喪ってしまう、という喪小説をいくつか集中的に書いている。本作は『学生』と並んで、著者の作品の中でも最も美しいものだと思う。満点の星の夜、復活祭の灯火に浮かぶ登場人物のシルエット、そして聖なる空気感、人の繋がりの温もり。優しさへと開かれていく眼。分析的に読むより、ひたすらそれに浸りたい。無神論者である著者の作品から後光の様にフワッと輝いて出てくる聖なるイメージ。チェーホフの一番の読みどころとは、それなのだと私は思う。2019/03/11

ぺったらぺたら子 

10
ふと「ロスチャイルドのヴァイオリン」の事が解ったので記しておく。ユダヤ人差別についての話に置き換えられてはいるが、著者の生い立ちを考えてみると実はこれは著者の少年時代について語った話に相違あるまい。ヤーコフは父親そのままだし、母親の不幸な結婚生活も。そして苛められっぱなしの哀れなロスチャイルドこそは著者なのだ。暴力的な功利主義者ヤーコフから受け継いだヴァイオリンで物悲しい演奏を繰り広げるロスチャイルドは父親から受け継いだ血を以て美しい話を書き続ける著者の、自分自身の血と運命をうたった哀しい歌なのだ。↓続く2017/05/23

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