出版社内容情報
シラノは学者で詩人で軍人で,おまけに天下無双の剣客だが美男とは言いかねる大鼻の持主.この豪傑が「考えまいと思うそばから,あの命取りの美しさ」と秘かに想いをかける従妹に,あろうことか同僚の色男から仲をとりもって欲しいと頼まれる…….十七世紀の実在の人物シラノはロスタンの劇化でフランス一の人気者となった.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
71
愛しい人のためになるならと、彼女が思いを寄せる男の恋文を代作し、彼の代わりに窓辺で歌う。なんとも悲しすぎるシラノの恋。真相が分かった後でも「御伽噺じゃなし、愛していますと言われたとたん美男子になったりしないのだ」と言わずにはいられない彼のコンプレックスの深さが、あまりにも痛々しい。恋文や歌の代行は、どんな形であれ自分の愛を彼女に向かって表現したいというシラノの気持ちの表れだったのだろうが、本気の思いがあふれていたからこそ、その言葉にロクサアヌは惹かれたのだろう。真相が彼女に伝わって、本当に良かった。2017/11/02
優希
51
ずっとロクサアヌを愛し続けていたシラノの苦しい片思いが刺さるようでした。シラノは美男ではなく、どちらかというと醜男ですし、本人もそれをコンプレックスに感じていましたから、永遠の片思いでもいいと思っていたのでしょう。同僚のクリスチャンとの仲をとりもとうとするのに胸を痛めます。最後にようやくロクサアヌに想いを伝えるのですが、それを潔いととるかどうかですね。ロクサアヌも初めて自分の本当の想いに気づくのが感動的です。シラノの生き方は苦しみかもしれませんが、何処か憧れるものを感じました。2014/08/22
なる
47
昔から演じ継がれている有名な戯曲だそうで、名前だけはなんとなく聞いたことがあったな、と思っていたら翻訳者のメンツで思い出した。翻訳者の鈴木信太郎が惚れ込んで友人の辰野隆が手放そうとしたら秒速で貰い受けたという作品。不細工なルックスをした勇敢な騎士シラノが密かに慕う従妹ロクサアヌ。彼女の惚れた相手は自身の友人でもあるクリスチャン。賢くないクリスチャンのためにシラノは多才な表現力でロクサアヌとの仲を取り持とうとする切ない話。しかし問題は翻訳が古すぎて読みにくい。信太郎もうちょっとなんとかならなかったのか。2023/03/19
藤月はな(灯れ松明の火)
30
文学研究会の文学少女の後輩のお勧め戯曲。喧嘩っ早いけど詩心もあって啖呵も洒落ているいい男、だけど鼻がコンプレックスなシラノと美しいが気が弱いクリスチャンは二人が協力したからこそロクサーヌを手に入れたけどシラノは自分の気持ちを押し殺して見守るが時々、激情に胸を焦がされる様は神々しさを感じさせるほど。そんな彼こそ、男の中の男なのじゃないでしょうか。最後まで友とその想い人を慮ったシラノの最期の言葉が彼らしくて涙が出そうになりました。2012/06/21
松本直哉
28
クリスチャンのようにただ美男であるだけでは足りず、シラノのような言語の洗練が求められるのは17世紀フランスのプレシオジテpréciosité の文化が背景にあり、女性を口説くのに和歌の作法が必須だった平安文化と似ていなくもない。実際シラノの比喩と典故を駆使した華麗な言葉づかいは圧倒的なのだが、終幕でロクサーヌがシラノの14年越しの思いに気づくのは言葉であるよりも彼の〈声〉によってだった。容貌は衰え、言葉は陳腐になっても、声は、その人の魂のありようを、もっと身に沁みいるようなやり方で、伝えるものなのだろう。2022/11/21