出版社内容情報
スペインを旅行中の考古学者は,ふとしたことから今は獄中にいる山賊ホセを知る.彼は形見の品を母親に渡してくれと頼んだのち,懺悔話を始めた.それは,純情な青年が情熱の女カルメンに翻弄され,闘牛士や彼女の情夫,果ては彼女まで殺してしまった悲しい話だった.歌劇とはまた異なる沈痛な激情に貫ぬかれたメリメの傑作.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェルナーの日記
113
俗に『運命の人』は、赤い糸で結ばれ、何があろうとも、最後には結ばれて幸せになるイメージがあるが、実はまったく違う。本来の『運命の人』は、たとえ自分の身が亡びようとも、相手を愛さずにはいられない人を指す。ホセとカルメンこそが、まさに『運命の人』だった。また文学的に観れば、アリストテレスやホラティウス以来、最上の物語は悲劇で、決してハッピー・エンドにならない。故に二人の出会いの結末は、必然的にバット・エンドとなり、二人は互いの我が身を滅ぼす悲恋の物語で、まさしくお互いにとって『運命の人』だったのだ。2015/12/24
NAO
78
オペラ「カルメン」を観たくなったので、その前に原作を再読。今回読んで、この話は芥川の『偸盗』とそっくりだと思った。男を惑わせ悪に誘う魔性の女カルメンと女盗賊沙金は、なんと似ていることか。でも、カルメンも、沙金も、結局最後のところで彼女を激しく愛した男に殺されてしまう。結局、こういう女性の魔性は、自分自身をも滅ぼしてしまうものなのだろうか。カルメンが沙金と違うのは、情熱的・本能的に動いているように見えて占いを本気で信じているところ。自分の死をも予感しながらもホセと離れらなかったカルメンは、まさにジプシー女。2017/09/03
藤月はな(灯れ松明の火)
43
この作品を読むとオペラのカルメンの曲が浮かび上がってきます。欠点すらもそこにある長所がより一層、強靭な美しさを際立たせるボヘミア女のカルメン。カルメンは気まぐれで凶暴で自らを「悪魔」と言う女という所に同性ながらも惹かれてしまいます。それは彼女が自由を愛し、自分の感情に素直であることの羨望も入っているのかもしれません。一方、ホセは純情で如何にもカトリック的考えの持ち主。そのため、カルメンの心には絶対に気づかなかった。愛は変わるけど存在していたことは変わらない。この温度差は現実にも当て嵌まると思います。2012/10/27
そうたそ
42
★★☆☆☆ 最近ふとしたことからオペラ「カルメン」を見る機会があり、そんなことから小説版の方も気になったために手にとって見た次第。オペラではカルメンは自由奔放に生きる気高き女性というイメージが強い。それに対してこの小説の方では自由奔放さはそのままでありながら、気高さというような美しさは微塵も感じられなかった。どちらかというと生きることに卑しいというイメージの方が強かった。端的に言えば、「クソビッチに翻弄される男」を描いた話なのだが、それに留まらない格式高さがこの作品の文学的価値を示しているように思う。2014/10/01
かごむし
41
ジャンジャカジャカジャカジャンジャカジャカジャカジャンジャカジャカジャカジャーン!の印象しか予備知識がなかったけど、全然そんな雰囲気じゃなかった。個人的には不思議な小説だったなあという感じ。不道徳だけど、活気があって、爽快さがあって。スペインのあたりの民族的な背景を知っているともっと面白く読めるんだろうけど、そんな下準備がなくても小説として面白かった。「カルメン!おれのカルメン!おれにお前を救わせてくれ、お前と一緒におれを救わせてくれ」すごくストーリーは短いのに、ぐっと感情移入させられる。2015/11/03