出版社内容情報
シュトルムの作品は常に「思い出」と暖い「雰囲気」とでつつまれている．彼の真実を求める心と，美しく浄化しようとする努力とは，われわれの胸をゆすぶる力となる．少女の胸に宿った恋のおののきと処女のはじらいを描いた「美しき誘い」に，ハイドン，モーツァルトへの作者の限りない敬愛をもりこんだ「静かなる音楽家」を添える．
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
にゃおんある
26
潮風の吹くヒュッテには、老婆と彼女が住んでいる。枠にはまらない少女は、老婆の制止を振りほどいて海へ向かう。地水空の三重の境界点には何があるのだろう、レックレスを感じるままに走り出す。水晶の水のゆらめきと白い飛沫と射るような陽ざし飛びすぎる水鳥。天候は良くても時化ていた。気を失った蕾をでないひとりの少女がくずおれるように青年の腕に身を委ねてしまった。それはーー大人に通じるただ一つの敷居にはーーもうずっと前からーー恥ずかし屋の妖精は頭のなかで逃れさろうと苦心していた、ダビデの彫刻のごとき美青年に……2017/10/03
双海（ふたみ）
14
溺れかけた少女を助けて・・・そして・・・。「ほころびそめる乙女のばら、あらゆる美のまどろめる祕密、それが彼女だったのだ。――海の波がどんなにものほしそうに、彼女にむかって舌なめずりをしたことか！」2014/02/27
timeturner
9
人生がこれから花開こうとしている若者たちの恋を描く「美しき誘い」と、つつましやかな人生の終りを迎えようとしている老人を描く「静かなる音楽家」の二編という組み合わせが良い。どちらも静かで急がない語り口で、書かれている以上の言葉が行間にあふれている。2020/02/03
里馬
9
年老いた音楽家を描く【静かなる音楽家】も、彫刻家と娘との恋を描く【美しき誘い】も儚い煌きの導きと、もやもやしたじれったさで一気読み。もっとシュトルム読みたいです。2010/05/12
きりぱい
7
はねっ返りなのにまだまだうぶな少女と美しい芸術家の何ともみずみずしい恋の様子。その描き方は、溺れる少女を助けて抱きかかえるだけで、愛を疑ってエロスを失い、絶望で河に身を投げその河神に水から救い上げられたプシュケーになるのだから、なんとまあ詩的に麗しすぎる。若々しく澄んだ空気の結末は、ふふっと朗らか。シュトルムっぽいのに何だかシュトルムっぽくないな。もう一篇「静かなる音楽家」の方がらしいというかよかったかな。友情のふれあいが好きなんだな。ラストにはしーんとする。 2014/06/06
